『鏡』
毎朝ニュース番組とともに放送される、じゃんけん対決。
それはテレビのリモコンを操作することで参加できて、勝てばキャンペーンに応募できるというものなのだけど、小学生のあの子は学校に行く前にただただキャラクターとじゃんけんをしていた。
けれど運が悪いのか、何度やってもあの子が勝てる日はこなくて、あの子も悔しかったみたいで毎朝じゃんけんの前に洗面所で練習してたみたいなのね?
その練習方法が驚きでね、あの子ったら、【鏡にむかってじゃんけん】してたんですって。
意味ないわよね…でも、子供の発想っておもしろくて、見ていて楽しいのよ。
それからしばらくしても、あの子が番組のじゃんけんに勝つ姿を見れることはなくてね、まだかまだかと様子見してたんだけど…ある日にあの子、不思議なことを言い出したのよ。
「おっかしいなぁ…いつもは勝てるのに……」
って。
おかしい話ではないわ。このニュース番組のじゃんけん対決以外でも、学校とか友達と遊ぶ時とか…じゃんけんをする場なんていくらでもあるし。
…ただ、ちょっとだけ違和感を感じて………少しの好奇心で、あの子が鏡に向かってじゃんけんしてる様子をスマホで撮ってみたのよ。
その時はあの子自身を見てたから気づかなかったんだけど…あの子がその日もじゃんけんに勝てずに学校に行ったあと、動画を見返してみたの。
そしたら…あの子、鏡の自分に勝ってたのよ。
さすがに気味悪くて、動画は直ぐに消して、帰ってきたあの子に鏡の前でじゃんけんはやめるよう言ったわ。
…鏡は自分をうつすだけじゃないこともあるみたいだから、気をつけた方がいいわ。
役たたず、出来損ない………なんでもできる兄と比べられて、僕が罵られた回数は数知れず。
家での居場所がない中、兄はいつも僕を気遣ってくれた。成績優秀で、運動もできて、リーダーシップもあって、それでいて優しくて。
そんな兄はなにもできない僕にこんなにも良くしてくれる。怖かった。
上手くいかなくたっていいって、みんな言うけど……親はそれを認めてくれはしないし、優遇されるのは兄で冷遇されるのはいつだって僕。
勉強ができる兄は褒められ、例えいい点をとっても僕には嫌味ばかり。褒めて伸ばすってことを知らないのか。
まぁ、こんな親に褒められたとして成績が伸びるかはいささか不明だが。
そんな時に、僕は音楽に興味を持った。高二の初夏のことだった。あんな両親が僕の趣味にお金をかけてくれるわけはないし、密かにアルバイトをして死ぬほど頑張って専門学校に行けるまでになった。
もしアルバイトをしてるなんてバレたら、そんなことをする暇があるなら勉強しろだなんて言われることはもちろん、家に金をいれろと言われるに違いないと踏んだ僕は、兄にすら話さず貯金を続けた。
そして、高三…卒業したその日に、上京して仕事が安定した兄に連れられて家を出た。
兄はすごい人だった。僕のアルバイトのことも、行きたい学校のことも、全部知ってた。
そして僕が卒業したその日に、僕宛てにって分厚い封筒をくれた。
助けるのが遅くなってゴメンって、涙ぐみながら言ってた。
……僕の兄は優しくて頭もいい。でも、それだけじゃない何かがあって、僕はそんな兄が大好きだ。
突然だけど、俺の彼女がかわいい。
犬系猫系ってあるけど、それとはまた違って、なにかといえばハムスターみたい。
美味しいもの大好きで、幸せそうにほおばるところがほんとにかわいい。
基本的誰とでも仲良くて、人懐っこいから好かれやすいみたいだ。密かに男子からの人気が高いのは嫉妬案件だけど、俺のためにおしゃれしたり……俺のためにやってくれてる事が目に見えてうれしい。
笑顔もまぶしいし、なんなら声も可愛い。
勉強もスポーツもできてリーダーシップもある。
こんな完璧な彼女はどこにでもいるもんじゃない。
なんとなく彼女がいる男友達に自慢して、ふと教室で話す彼女を見る。
………あー、今日も太陽みたいに笑う彼女がかわいい。
…………喧嘩した。
いや、今回は俺が全面的に悪いんだけど……中々連絡できなかったのも、隠し事してたのも、全部記念日ためだったからなんか複雑でさ…。
俺もすぐ謝れればよかったんだけど、記念日までまだあるし、全部話すことまではさすがにできなくてさー。
いやだって、記念日のプレゼントとか、めっちゃ働いてやっと手に入ったものばっかりだしさあ、ここまでやったのにあっけなく話すとかできなくね???
……………いやそうなんだよ!それなんだよ!
結局意地張って仲直りから程遠くなってんだよ……!
いや…やっぱ、俺が悪いよなぁ………いくら記念日サプライズのためとはいえ、張り切りすぎてその時その時の彼女を大事にしてやれてなかった…。
……………決めた。頑張って準備した俺自身に申し訳ねぇけど、今回のサプライズはやめて、早めにプレゼント渡すことにするわ。
で、当日は彼女と計画してちょっと贅沢するか!
おぉちょい!なに勝手に寿司とかリクエストしてきてんだよ!この礼はするけど、記念日の贅沢に加担はさせねぇぞ!
ったく………んじゃーまあ、あいつが目覚める前にプレゼント準備すっかー!
……どんな仕事をしているかって?私の仕事は……人を、助ける仕事…かな。
大変じゃないかって?もちろん大変だよ!でも……楽しくて、好きな仕事なの。
昔からなにをするにも人の役に立つことが好きでね、手伝いしたりって……そんなことばっかりしてたの。
……辛いよ。例え人助けができても、私を助けてくれる人は多分居ない。ある意味孤独よ。
でもそれでも、できるからやるの。大変な仕事だからこそ、誰かのために私がやらなきゃって思うの。
ね、いいと思わない?
……そうね、でも………オススメはしないわ。人助けが好きな人でも……壊れていくだけだわ、結局。
あなたは……自分の好きなことやって、自由に人生を楽しんでね。………………私みたいに、ならないように。