……もう、終わりにしよう。
それが彼女の、最期の言葉だった。
人はいつか死ぬものだ。それはいつでも覆されることの
ない運命である。
…………彼女が死んだのは、これで5度目だ。どういうことか?まぁわかるわけはない。
こんなこと普通ではないし、ありえない。ファンタジーの世界に飛び込んだような、そんな感覚だった。
僕が彼女に未練があると、戻ってきて欲しいと願い、彼女の元へ行くため死のうと考えると、彼女は戻ってきてくれた。
もちろん、そこから幸せに生き延びるだなんてことがあるはずもなく、戻ってきた1週間以内にはもう1度死を遂げる。
何度も、何度も……助けようとした。助けるための策を考えた。でも……ありえないことゆえ、人からの意見をもらうことなど到底できず、ただただ何度も死ぬ彼女を苦しく見ていることしか出来なかった。
そんな時、4度目の死を終え、つまり、つい先程。戻ってきた彼女が、静かに言った。
もう終わりにしよう、と。ただ一言。涙が止まらなかった。だって、その言葉を聞けば最期、僕は彼女に辛い思いをさせてまで一緒にいるのだと、後悔するとわかっていたから。
……大丈夫、いつでもそばにいるよ。見守ってるよ。あなたが本当に大丈夫になるまで、ずっと隣にいるよ。
私はあなたといられて幸せだった。楽しかった。でも私が死んで、あなたが1人残された時、後を追うんじゃないかと心配だった。
…………だから……あなたが大丈夫になるまで、と思って戻り続けたわ。
でも……もう限界ね。
……いつかあなたが家庭をもって……愛する妻と子供ができて。孫ができて、ひ孫ができて?笑
…………それで、もうこれ以上の幸せはないって思ったら、私に会いに来て?お嫁さん紹介してよ。
待ってるよ。
ありがとう。またその時まで……さようなら。
……あ、入道雲…………。
夏休み半ばで見たその雲は、大きな雨や雷を運ぶ。
そこから約1時間後に、一帯は激しい雨に包まれ、雷がなっていた。
突然の雨に走り出す人、持参していた傘を慌ててさし歩く人、自転車をものすごいスピードでこいで走り抜けていく人……私はそのどれでもなかった。
家の中は窮屈で、冷たい。生きる価値すらわからないまま、半端にこの歳まで生きてしまって正直後悔している。
勉強ができなければ罵られて、学校にも居場所は無い。
私にはなにも「特別」がなかった。
クラスの人達は、日々好きなことで話題を広げたりしているけれど、私には趣味も特技もなく、つまらない人間だと認識されているらしい。
…………あの子は勉強ができて、あの子はスポーツ推薦をもらった。あの子は英語が得意で、立派な大学に入学が決まっている。
あの子は読書が好きで、あの子は話すのが好き。
みーんな個性があって、ちゃんとニンゲンなんだ。
……雨に濡れながらゆっくりと進む。
すれ違う人は皆、私をおかしいものだとでも言うような目で見つめてくる。
ここも、居心地が悪い。どこも大して変わらないのだ。結局、個性のないものに居場所はない。
あの瞬間に入道雲が出てよかった。
…雨が降れば、この涙が見られることはないのだから。
君と最後に会った日は……確か、雨が降ってたっけ?
梅雨の時期ではなかったから、天気予報なんて特に気にしてなくて…………2人して傘がなくて、玄関で笑って立ってたっけ。
君とはあんまり話したことなかったから、僕正直嬉しかったんだよ。それに楽しかった。
君がもう少しで引っ越すことなんて忘れるくらいにね。
でもあれから数日、慌ただしかったみたいで顔を合わせることなかったね。
あー、やっぱり 好き の一言くらい言っておけばよかった。
「 今日はなんだか……あいまいな色の空だね。」
放課後、教室。シチュエーション的にはいいものなのだけど、実際、空はよく分からない色をしていた。
オレンジ、いや赤かな?水色も見える気がするし……太陽は見えているのかな。
僕は何も言わず空を見上げる彼女を見つめて、そっと一言。
「 ━━━━━━━━。」
彼女は清々しい顔で笑った。僕はそれが嬉しくて、一緒にまた笑うのだ。
1番好きな花??
…………強いて言うなら、あじさいかなぁ。
思い出なの。大切な、ね!
花言葉は「浮気」。
私がこの花が好きな理由?そうね……あなたなら1番わかってるんじゃない?