『君と』
気の優しい彼女との生活の中で
毎日書き綴るエッセイ。
それを仕事とする僕は、
1日ずつ、文章を書く。
その毎日はとても楽しくて。
残されたのは、1日。
時の流れはとても早くて
寿命は追いついてくれない。
もう、ここでお終いか
あの日々がどれだけ楽しかったことか。
僕は 必死に呼吸をしながらペンを持つ。
ありがとう。
それが今日分の随筆。
君へ向けた最期の文。
ありがとう。
最期まで。
君と ともに。
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『記憶』
触れてみた
観察してみた
嗅いでみた
質感と、
かたちと、
香り
それだけが、
僅かに残る、
鮮明な 記憶。
何も覚えてないけれど、
笑って泣いた貴方の顔は
心に残る
最期の記憶
『もう二度と』
必死に
伸ばした腕でも、
彼女には届かない。
追いかけ続け、
追い抜かすことを夢見て
ずっと
ずっと
嗚呼、
なんでこんなこと、
死ぬ間際に考えるのだろう。
落下しながら
必死に伸ばした私の腕は
届くはずのない彼女の方へ。
もう、これで、
もう、一生、
もう二度と
届かなくなってしまった。
『心のざわめき』
嫌な予感がしたんだ
そういうのはだいたい外れるもんだから、
信じてなかったけど、
遅かった。
まさか目の前で起きるなんて思いもしなかった。
いつだったかな。
心のざわめきを覚えたのは
『君と見た虹』
帰りが遅くなったが
傘を忘れた僕は、
ひとりの優しい 彼女の傘に
入れてもらった。
頭半分ほどの身長差だったが、
彼女の顔は近く、
歩くたびに心臓の音が聞こえる。
右肩に当たっていた雨粒は無くなり、
今しがた空は明るくなり、
陽の反対には大きな光の輪ができていた。
きれいだね なんて声を掛けられ、
さらに鳴り止まなくなる心臓。
虹色の光は、まさに祝福しているようで。
君と見た虹。
それが、最初で最後の初恋だった。
10年後にも、
あの虹を、 君と見た虹を、
また見られるなんて。