「手を繋いで」
それは冬の寒い日
窓の外では北風が
音を鳴らして吹き過ぎる
背中を丸め両の腕を抱き締めた
視線の先には
自由の化身
可愛さの権化
わたしの愛しいあの子
窓から差し込む冬の陽光にその身を委ね
ぬくぬくとその温もりを享受している
そっと近寄りそっと顔を埋めれば
太陽の香りが胸いっぱいに広がった
嗚呼 可愛い
なんと 可愛い
手を繋げば
それは幸せ
「さよならは言わないで」
貴方を愛していたのよ
それなのに、どうして
どうして私を置いていくの
ああ、神よ
願わくば、
来世でも貴方と出逢いたい
本当に、愛していた
眼前に黒が降りる。
胸を打つこの激情は何なのだろうか。
思いながら、流れゆくアルファベットを眺め、壮大な音楽に耳を傾け「終わり」を享受する。
明転。
映画の終わりは、いつも言いたくなりますね。
「さよならは言わないで」
「光と闇の狭間で」
ある時は、たくさんの目に晒されて恥をかく。
ある時は、時間に遅れて冷や汗を流す。
ある時は、見知った人間に怒号を浴びせる。
ある時は、親しき命が掌から散っていく。
そして私は、息の仕方を忘れてしまう。
ささやかな隙間から差し込む陽光に照らされて、はたと目が覚め、ようやく息を吸う。1日の始まりである。希望をすり潰した鈍色の気持ちを胸に抱きながら、ひとり想う。
ーーああ、生きてる。
「距離」
彼はピアノを弾くときに、腕を大ぶりに振り上げて鍵盤を叩く癖があった。わたしはいつもそれを窮屈に思っていたけれど、いくら言い聞かせたって彼のその癖が治ることは終ぞなく、わたしは今も昔もそれに悩まされるのだった。
ラフマリノフが創りあげた世界を、ふたりの指が紡いでいく。時折、指と指が触れながら。だから言ったのに。今日こそ、その悪癖を治してくれと。ほら、また。
ーーだからわたしは、この時間を好いている。彼との連弾の、あたたかいひと時を。