「距離」 彼はピアノを弾くときに、腕を大ぶりに振り上げて鍵盤を叩く癖があった。わたしはいつもそれを窮屈に思っていたけれど、いくら言い聞かせたって彼のその癖が治ることは終ぞなく、わたしは今も昔もそれに悩まされるのだった。 ラフマリノフが創りあげた世界を、ふたりの指が紡いでいく。時折、指と指が触れながら。だから言ったのに。今日こそ、その悪癖を治してくれと。ほら、また。 ーーだからわたしは、この時間を好いている。彼との連弾の、あたたかいひと時を。
12/2/2024, 10:51:01 AM