夜が明けた。
ストーカー気質の僕の彼女は、いつも
「私からは逃げられないよ」
と言う。
そういう言葉にゾッとする人も多いだろうが、僕は全然平気だ。
束縛が強いのも気にならないし、マメな連絡も苦になるどころか嬉しい。
それにこれは例え話ではない。
彼女はテレポーターなので、実際にいつでもどこでも僕の所へ飛んで来れるのだ。
ちなみに僕は今、山中を遭難中だった。
サークル仲間との退屈なトレッキングではぐれてしまい、気づけば電波も届かない木、木、木ばかりの山奥。
本来なら心細くて仕方ないところだが、遭難を知ってすぐ彼女がテレポーテーションで来てくれた。
熱いスープを僕に手渡しながら
「一人でしか飛べないダメな能力者でごめんね。この場所も地図で特定出来なくてごめんね…」
そう言って、しょんぼりうつむく彼女はとっても可愛い。
尾根筋で二人で毛布にくるまり星を眺めていると、まるで世界に僕らしかいないみたいだ。
残念だね、もうすぐうっすら夜が明ける。
ふとした瞬間
彼女は最近悩んでいる。
ふとした瞬間、息子の顔がぐにゃりと歪んで見えるのだ。
二人の孫たちの姿も、ヌメヌメした緑色に見える。
目を擦ったり瞬きすれば戻るのだが、このところ頻繁なので、少し不安になり
「歳のせいかしらねぇ…」
そう言うと孫たちは笑い飛ばすし、息子は気のせいだよと優しく言ってくれるのだが…。
さてその夜、密談する三つの影があった。
ヌメヌメした緑色のエイリアンたちだ。
―どうも屈光シールドが壊れたらしいぞ…精度が悪くなっている…
―シールドは我々の命綱だ…すぐ母星に連絡を…
―やってみたが…そちらで対応しろとのことだ…
―何だと…またか…もうやってられんな…
彼らは潜入工作員。
異星で危険な成りすまし任務を行っているというのに、いつもながら上層部が無責任すぎる。
やはりどの星でも、トラブルは現場に丸投げのようだ。
「こっちに恋」「愛にきて」
恋人たちの休日は、朝のLINEから始まる。
―おはよう 晴れてるね どこか遠出する?
―いいね どこで会う?
すぐにでも出かけたそうな、でも実は二人ともまだそれぞれのベッドの中だ。
のろのろ起きて、ゆっくりコーヒーを淹れて、音楽を聴いて、動画を見て、何だかんだで気づけば昼。
―ちょっと遅くなったから もうこっち来る?
―うーん そっちこそ 会いに来たりしない?
二人は似た者同士、かなり強めのインドア派なのだ。
気持ちはあるけど本当はどこにも出かけたくない、でも恋人には会いたい。
映画を観て、ネットショッピングして、ゲームをして、部屋で楽しくダラダラしながらも、相手が今ここにいてくれたらなぁ…と寂しく思っている。
そんな二人がどちらからともなく、一緒に住む?という話になり、理想の休日を過ごすようになるのは、まだ少し先の話だ。
巡り逢い
ツバメの夫婦が、新居の内見に来ている。
電線と家の玄関を行ったり来たり、巣作りの下見のようだ。
ここ二年ほど来ていなかったので、すっかり嬉しくなり
「今年はツバメが来るみたい」
と夫に言ったら
「いやそうとも限らないぞ」
とのこと。
夫が見たときは、ツバメたちはお向かいの玄関を熱心に調べていたらしい。
お向かいも人気物件なので、さてどちらが選ばれるか、こればかりは巡り合わせだ。
巣作りから巣立ちまで、玄関下の掃除は大変だし、卵が無事に育つかハラハラし通しだけど、またあの可愛い雛たちに逢いたいな。
大家はそっと待っています。
big love!
僕らが若くて希望に満ち溢れていたころ、もっと遠い大きな未来を夢見ていたころ。
皆の思いを背負って大海へ漕ぎ出した冒険者がいた。
時が経ち僕らは年老いて、足元ばかり見るようになった。
身近な幸せ、小さな楽しみ、手の中の小箱に使い捨ての夢を映して。
けれど冒険者は今も孤独な旅を続けている。
僕らのメッセージを携えて、遠い遠い未知の宇宙へ。
ボイジャー1号2号へ。
僕はただのSF好きの子供だったけれど、夢を現実にしようとした君たちを忘れない。
いつか未来のどこかでまた会えますように。
地球より、大きな愛を込めて。