NoName

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4/28/2025, 3:22:19 PM

夜が明けた。

 ストーカー気質の僕の彼女は、いつも
「私からは逃げられないよ」
と言う。
 そういう言葉にゾッとする人も多いだろうが、僕は全然平気だ。
束縛が強いのも気にならないし、マメな連絡も苦になるどころか嬉しい。
 それにこれは例え話ではない。
彼女はテレポーターなので、実際にいつでもどこでも僕の所へ飛んで来れるのだ。

 ちなみに僕は今、山中を遭難中だった。
サークル仲間との退屈なトレッキングではぐれてしまい、気づけば電波も届かない木、木、木ばかりの山奥。
本来なら心細くて仕方ないところだが、遭難を知ってすぐ彼女がテレポーテーションで来てくれた。
 熱いスープを僕に手渡しながら
「一人でしか飛べないダメな能力者でごめんね。この場所も地図で特定出来なくてごめんね…」
そう言って、しょんぼりうつむく彼女はとっても可愛い。
 尾根筋で二人で毛布にくるまり星を眺めていると、まるで世界に僕らしかいないみたいだ。
残念だね、もうすぐうっすら夜が明ける。

4/28/2025, 3:33:45 AM

ふとした瞬間

 彼女は最近悩んでいる。
ふとした瞬間、息子の顔がぐにゃりと歪んで見えるのだ。
二人の孫たちの姿も、ヌメヌメした緑色に見える。
目を擦ったり瞬きすれば戻るのだが、このところ頻繁なので、少し不安になり
「歳のせいかしらねぇ…」
そう言うと孫たちは笑い飛ばすし、息子は気のせいだよと優しく言ってくれるのだが…。

 さてその夜、密談する三つの影があった。
ヌメヌメした緑色のエイリアンたちだ。
 ―どうも屈光シールドが壊れたらしいぞ…精度が悪くなっている…
 ―シールドは我々の命綱だ…すぐ母星に連絡を…
 ―やってみたが…そちらで対応しろとのことだ…
 ―何だと…またか…もうやってられんな…
 彼らは潜入工作員。
異星で危険な成りすまし任務を行っているというのに、いつもながら上層部が無責任すぎる。
 やはりどの星でも、トラブルは現場に丸投げのようだ。

4/25/2025, 2:48:34 PM

「こっちに恋」「愛にきて」

 恋人たちの休日は、朝のLINEから始まる。
―おはよう 晴れてるね どこか遠出する?
―いいね どこで会う?

 すぐにでも出かけたそうな、でも実は二人ともまだそれぞれのベッドの中だ。
 のろのろ起きて、ゆっくりコーヒーを淹れて、音楽を聴いて、動画を見て、何だかんだで気づけば昼。
―ちょっと遅くなったから もうこっち来る?
―うーん そっちこそ 会いに来たりしない?

 二人は似た者同士、かなり強めのインドア派なのだ。
気持ちはあるけど本当はどこにも出かけたくない、でも恋人には会いたい。
映画を観て、ネットショッピングして、ゲームをして、部屋で楽しくダラダラしながらも、相手が今ここにいてくれたらなぁ…と寂しく思っている。

 そんな二人がどちらからともなく、一緒に住む?という話になり、理想の休日を過ごすようになるのは、まだ少し先の話だ。

4/25/2025, 4:20:25 AM

巡り逢い

 ツバメの夫婦が、新居の内見に来ている。
電線と家の玄関を行ったり来たり、巣作りの下見のようだ。
ここ二年ほど来ていなかったので、すっかり嬉しくなり
「今年はツバメが来るみたい」
と夫に言ったら
「いやそうとも限らないぞ」
とのこと。
 夫が見たときは、ツバメたちはお向かいの玄関を熱心に調べていたらしい。
お向かいも人気物件なので、さてどちらが選ばれるか、こればかりは巡り合わせだ。
 巣作りから巣立ちまで、玄関下の掃除は大変だし、卵が無事に育つかハラハラし通しだけど、またあの可愛い雛たちに逢いたいな。
 大家はそっと待っています。

4/23/2025, 12:24:46 AM

big love!

 僕らが若くて希望に満ち溢れていたころ、もっと遠い大きな未来を夢見ていたころ。
皆の思いを背負って大海へ漕ぎ出した冒険者がいた。

 時が経ち僕らは年老いて、足元ばかり見るようになった。
身近な幸せ、小さな楽しみ、手の中の小箱に使い捨ての夢を映して。

 けれど冒険者は今も孤独な旅を続けている。
僕らのメッセージを携えて、遠い遠い未知の宇宙へ。

 ボイジャー1号2号へ。
僕はただのSF好きの子供だったけれど、夢を現実にしようとした君たちを忘れない。
 いつか未来のどこかでまた会えますように。
地球より、大きな愛を込めて。


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