NoName

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夜が明けた。

 ストーカー気質の僕の彼女は、いつも
「私からは逃げられないよ」
と言う。
 そういう言葉にゾッとする人も多いだろうが、僕は全然平気だ。
束縛が強いのも気にならないし、マメな連絡も苦になるどころか嬉しい。
 それにこれは例え話ではない。
彼女はテレポーターなので、実際にいつでもどこでも僕の所へ飛んで来れるのだ。

 ちなみに僕は今、山中を遭難中だった。
サークル仲間との退屈なトレッキングではぐれてしまい、気づけば電波も届かない木、木、木ばかりの山奥。
本来なら心細くて仕方ないところだが、遭難を知ってすぐ彼女がテレポーテーションで来てくれた。
 熱いスープを僕に手渡しながら
「一人でしか飛べないダメな能力者でごめんね。この場所も地図で特定出来なくてごめんね…」
そう言って、しょんぼりうつむく彼女はとっても可愛い。
 尾根筋で二人で毛布にくるまり星を眺めていると、まるで世界に僕らしかいないみたいだ。
残念だね、もうすぐうっすら夜が明ける。

4/28/2025, 3:22:19 PM