#時間よ止まれ
止まれというか…いらない時間を溜めておければ良いなと思う。
あるバイトをしていた時、お客さんが全然来ず、ただただボーッと時間の経つのを待っていて、一緒にいた仲間と時計ばかり見ながらそんな話をしていた。
まだ何時間もあるよ、この時間を貯金箱か何かに蓄えておいて、好きな時に出して使えたらいいね…。
今でも退屈な待ち時間があると、その会話を思い出す。
この時間を取っておいて、眠たい朝に使えたら良いなぁ…とか。
#夜景
夜の女神が素敵なストールを編んでいる。
もう少し華やかさが欲しいな…と思っていたら、下にちょうど良いキラキラがあったので、両手でサーッとかき集めた。
このビーズを編み込めば、もっと豪華になるはず。
地上では人間が、あっ停電だ!と慌てている。
#花畑
小学四、五年の頃だろうか、ピアノの個人レッスンに一人で通っていた。
田舎の町だから先生の家までとても遠くて、自転車を壊してしまってからは、「もう少し早く歩けなかったの」と母に叱られるほど、通うのに時間がかかった。
それもそのはず、私はいつもこっそり寄り道していたのである。
寄り道の先は細い農道の先に偶然見つけた、人気のないれんげ畑だった。
ピンクの花畑に座り込んで、次々れんげを摘んでは大きな花束を作り、作った花束は道中の祠にお供えして、何食わぬ顔で家に帰った。
ある日れんげが全部なくなっていてがっかりしたが、後には綺麗に水が張られて苗が植わり、稲がそよぎ始めた。
ずっと誰にも会わなかったし、どれだけぼんやりしていても、鼻歌を歌っても、バカみたいにくるくる回っても大丈夫な、私だけの秘密の場所だったのだ。
たぶん家に帰りたくなかったのだなあ…と思う。
ピアノは大嫌いだったけれど、ギスギスした雰囲気の家がもっと嫌だった。
やがて両親が離婚すると、あの町から離れることになって、ピアノもやめてしまった。
#空が泣く
空がこっそり泣いている。
こんなに晴れた青い空に、ポツンとちぎれた涙型の雲。
いつも明るいあの人だって、きっとどこかで泣いているでしょう。
#君からのLINE
お祖母ちゃんがLINEを練習中だ。
何しろ高齢なので、毎晩家族のグループLINEに暗号のような文章が届く。
『夜になるとさむくなり、るね。?』
とかは上出来な方で
『わたし 肩 旦那さん まえのままと?かな』
など、全く意味不明の時もある。
でも本人は一生懸命だから、家族みんな気づくとすぐに返信するようにしている。
頑張ってるね、とか応援のスタンプとか。
ところが今夜こんなLINEが届いた。
『何故 私は何時も寂しいですか~分からないので苦いです』
あれれ…どうしたの、お祖母ちゃん。
心配になって、返事に悩む。
何て書こうか、それとも電話した方が良い?
既読マークが次々付くけれど、家族の誰も返信しない。
みんなの困った焦り顔が目に浮かぶ。
とりあえず電話をかけてみたら、話し中だったのでホッとした。