戻れない旅に出かけている。
穏やかな風が頬を撫でる。
夢のような景色が、目の前にゆらゆらと揺れている。
なんて綺麗なのだろうか。
1年のうち、ほとんどが夜だという、この恐ろしい世界も、この光に照らされればここまで輝いて見えるのか。
綺麗だ。
綺麗で、くるしい。
死んでいった仲間たちのことを思い出す。
消えていくもの。不確かなこと。それでも大切だったものたち。
皆、どうしようもなく失われてしまった。
僕はたった1人になってしまった。
なのに、どうしてこの世界はこんなに綺麗なんだろう。
白い息を吐く。
遠い思い出を思い出す。
優しい光に包まれる。
幸せってなに。
目と目を合わせて微笑まれるとき、幸せを感じる。
わたしがそれを感じているのは、今。
抱っこした知り合いの子どもから、向けられている真っ直ぐな視線。その微笑み。
私に何の嘘偽りもなく、真っ直ぐに向けられる好意に、涙が出そうになる。
幸せってなんだろう。
君の、幸せはなんですか。
サンタさんにプレゼントをもらうこと?
ゲームしてるとき?
私は君の笑顔を見る時が、いちばん
記憶の中の、光はなんだろう。
私の中のそれは、あの絵かもしれない。
ゴッホの夜のカフェテラス。
子どものころ、あの絵を、家の中にある埃を被った画集の中から見つけたとき、本が光っているみたいに見えた。
本当に印象的な絵だったんだ。
それがもうすぐ、見れるなんて。
いつだろうか。いつか、遠い昔。
私がまだ彼と肩を並べて、命を救う仕事をしていたときのこと。
彼が、不意に、「茶畑の、夕焼けが見たい」と言ったのだ。
仕事をしているときに、彼がそんなことを言ったことがなかったので、私は驚いてしまった。彼も、自分で自分の発言に驚いたようで、「すまない、違うんだ。…忘れてくれ」と言った。
けれど、その日は誰も怪我人はおらず、急ぎの仕事もなかった。気がついた時には、すぐに真剣な顔で仕事に戻ってしまった彼の、腕を、掴んでいた。
「っ……」
驚いた彼が、私の目を見る。ああ、この人の目はいつも、なんて真っ直ぐなのだろうか、と関係の無いことをぼんやりと思う。
「……今日の仕事は、これくらいでいいと思うよ?偶には休憩も必要だ。……ねぇ、一緒に夕焼けを見に行こうよ」
核心を突かれて、心がざわめいた。
私は自分より文章が上手い人がいると、心が苦しくなるのだ。
ずっとずっと、文章力だけが私のアイデンティティだと思っていた。誰にも負けないものだと思っていた。
だけど、いざネットの世界を見てみると、私より文章が上手い人なんて星の数ほどいて、私より面白い人なんて星の数ほどいる。
わたしなんてちっぽけだった。それを思うと心が苦しくてしかたがなくなるのだった。
そんな胸に秘めていたことをあなたに指摘されて、心がざわめいた。
あなたが次に言う言葉を私は怯えながら、そしてどこかで期待しながら聞いていた。
あなたが次に言う言葉は、きっと私を救ってくれるものだと思うから