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いつだろうか。いつか、遠い昔。
私がまだ彼と肩を並べて、命を救う仕事をしていたときのこと。

彼が、不意に、「茶畑の、夕焼けが見たい」と言ったのだ。

仕事をしているときに、彼がそんなことを言ったことがなかったので、私は驚いてしまった。彼も、自分で自分の発言に驚いたようで、「すまない、違うんだ。…忘れてくれ」と言った。

けれど、その日は誰も怪我人はおらず、急ぎの仕事もなかった。気がついた時には、すぐに真剣な顔で仕事に戻ってしまった彼の、腕を、掴んでいた。

「っ……」
驚いた彼が、私の目を見る。ああ、この人の目はいつも、なんて真っ直ぐなのだろうか、と関係の無いことをぼんやりと思う。

「……今日の仕事は、これくらいでいいと思うよ?偶には休憩も必要だ。……ねぇ、一緒に夕焼けを見に行こうよ」

3/21/2025, 4:08:33 PM