始まりはいつも、君の一言からだった。
君が「バンドやろうよ!」って言ったから
軽音楽部が出来て、
君が「近所の学校の軽音楽部と一緒に
合同ライブやろうよ!」って言ったから
今や☓☓地区高校生軽音ライブは毎年恒例になったし、
君が「ライブの動画をSNSに投稿しようよ!」って
言ったから
動画がバズってうちの軽音楽部がだんだん有名になって、
君が「全国大会に出ようよ!」って言ったから
部員みんな練習頑張って、今年ついに全国行きの切符を
掴んだのに。
全国大会当日、
あれだけやる気に満ち溢れていた君の姿はなかった。
なんで君はこんな大事な日に寝坊するのかなぁ。
駅や大型商業施設の近くにある交差点。
通勤ラッシュでも会社員の帰宅ラッシュでもない
夕方4時でも交通量はそれなりに多い。
学校からの帰り道、僕はこの交差点を渡っていた。
向こう側からも渡ってくる人がいる。その中に、
ちょっと変わった格好の子がいた。
黒いパーカーに黒のズボン。フードを被っていたから
性別は分からなかった。
服のラインの部分がネオンのように発光していて、
まるで近未来から来た子のように思えた。
思えただけ。
ちょっとそんなふうに思っただけだった。
その不思議な子が交差点を渡っていく。
僕も交差点を渡る。
不思議な子供と僕が交差点ですれ違った。
その瞬間、街の景色が変わった。
変わった形のビル、
上空を飛び交うドローン、
町中に普通にいるロボットたち。
僕はあの子とすれ違った瞬間、
未来都市に時空移動したらしい。
別れ際、彼女はいつも僕シーグラスを1つ渡して
こう言う。
「毎日君に渡すシーグラスが、
君のことを大事に思う人がいる証。
君は独りじゃないってこと、私の存在を、
どうか忘れないでね。」
彼女は夕凪さん。ちなみに本名ではない。
名前を聞いたら、あだ名をつけてほしいと言われたから、
夕凪さんと呼んでいる。
彼女は10年ほど前に病気で亡くなった幽霊で、夕方にだけこの砂浜に姿を現す。
彼女には健康に生まれ育った妹がいたらしいが、人と話すのが苦手で、学校にも近所にも友達がいなかった。思春期に入り、孤独や不安を募らせた妹は、数年前この海で自殺未遂を図ったそうだ。夕凪さんは母親とずっと病室で過ごし、妹さんは昼間は学校、夜は父親が仕事から帰るまで家で一人で過ごしていたため、夕凪さんが妹と過ごす時間は、父親が妹を病室に連れて来てくれる休日の数時間だけだった。姉妹で過ごす時間が短かったこともあり、夕凪さんは妹の悩みに気付けなかったそうだ。だから夕凪さんは、死後にこの海に一人でやって来る少年少女に声をかけているらしい。
僕はこの波打ち際で、彼女の隣に座り、
海を眺めているだけで、気持ちが楽になる。
シーグラスは、僕が孤独ではない証であり、
夕凪さんの優しさの証でもある。
その優しさに触れるため、忘れないために、
僕は毎日学校帰りにこの砂浜に来るのだ。
時間よ止まれ
朝から晩まで忙しい日々。
自分の時間はほとんどない。
これが終わったら、次はあれをやらなきゃいけない。
時間とタスクに追われる毎日。
真夜中のほんの少しの休息が
ずっと続いてくれたらいいのに。
時間よ止まれ。
夜明け前の午前5時。
静かで落ち着く、すっきりした朝のひととき。
この時間をぐっすり眠って過ごすか、
朝のストレッチや勉強タイムにするか、
趣味を楽しむか、
この時間の過ごし方には、その人の色(個性)が出る。
今日の明け方の空は何色ですか?