丘見ハレナ

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別れ際、彼女はいつも僕シーグラスを1つ渡して
こう言う。
「毎日君に渡すシーグラスが、
君のことを大事に思う人がいる証。
君は独りじゃないってこと、私の存在を、
どうか忘れないでね。」

彼女は夕凪さん。ちなみに本名ではない。
名前を聞いたら、あだ名をつけてほしいと言われたから、
夕凪さんと呼んでいる。

彼女は10年ほど前に病気で亡くなった幽霊で、夕方にだけこの砂浜に姿を現す。

彼女には健康に生まれ育った妹がいたらしいが、人と話すのが苦手で、学校にも近所にも友達がいなかった。思春期に入り、孤独や不安を募らせた妹は、数年前この海で自殺未遂を図ったそうだ。夕凪さんは母親とずっと病室で過ごし、妹さんは昼間は学校、夜は父親が仕事から帰るまで家で一人で過ごしていたため、夕凪さんが妹と過ごす時間は、父親が妹を病室に連れて来てくれる休日の数時間だけだった。姉妹で過ごす時間が短かったこともあり、夕凪さんは妹の悩みに気付けなかったそうだ。だから夕凪さんは、死後にこの海に一人でやって来る少年少女に声をかけているらしい。

僕はこの波打ち際で、彼女の隣に座り、
海を眺めているだけで、気持ちが楽になる。
シーグラスは、僕が孤独ではない証であり、
夕凪さんの優しさの証でもある。
その優しさに触れるため、忘れないために、
僕は毎日学校帰りにこの砂浜に来るのだ。

9/29/2024, 1:19:34 AM