君を失って一縷の望みを賭けたポストへの手紙。
そのポストは時空を超えて君に届くという。
今度はその灯火を消さないように。
僕が以前助言した進路を、望まれている養子先に進まないように手紙を書いた。
今度は幸せな人生をなぞって、どうかどうか。
祈るように投函した。
それからは再会を願ってひたすら君を探す日々。
いつまでも待ってる。
だから必ず会いに来て。
あれからどれ程の年月が過ぎただろう。
以前きみと旅をしたその地に今年も僕は行く。
君の好きなアーティストがライブをするよ。
チケットと共にまたあのポストに手紙を送った。
君のもとへ届いているだろうか。
ひとりゆらゆら電車に揺られる。
通り過ぎる色とりどりの景色。
君の好きなチマキを食べようかとしてたら、流れる景色が止まり開いたドアからガヤガヤと賑やかな声が流れ込んでくる。
その中の1人が通路を挟んで隣りに座る。
ふわふわした髪のその彼は。
思わず目を見張る。
よく見覚えのあるその顔は。
ずっとずっと願っていた。
やっと会えた。
不躾に見つめてしまってた僕に彼は不思議そうにこちらを見つめて会釈した。
後ろに座った仲間に名前を呼ばれる。
彼は僕が呼んでた名前とは違う名前で呼ばれてた。
あぁ…前とは違う未来を選択したんだね。
あの時とは違う道を歩んでるんだね。
隣りでお腹が鳴る音がした。
「これよかったら…」
咄嗟に手にしていたチマキを差し出すと
「あぁ…どうも」
戸惑いながらも受け取ってくれる。
「花火…今年は上がるんですね」
車内のポスターには花火大会の告知。
「あれ俺の地元の花火大会なんですよ」
美味しそうにチマキを頬張りながら応えてくれる。
「花火行くんですか?」
あの時は一緒に見れなかった花火。
きっと君は僕のことなんて知らないだろうね。
それでもいつか君の人生に混じり合えたらと思うよ。
今は違う名前で呼ばれてる君。
もうあの名で呼ぶことはないだろうけど。
生きててよかった。本当に、生きててよかった。
おかえり。
🐳(失われた響き)
早く起きすぎた朝。
カーテンを開けたその先の庭の草木は真っ白で。
きっとその上を歩けばシャリシャリと音がするだろう。
「あー今日も元気に寒そうだねー」
ストーブの上のやかんがシュンシュン音を立てて蒸気上るあたしの手にはあったかいコーヒー入りのマグカップ。
外との気温の差に窓ガラスが曇っていく。
「ストーブはまだ早かったかなー」なんて。
ひとりごとを言いながら。
「でも好きなんだよねーストーブ」
その前にしゃがみ込む。
そろそろ冬がやって来る。
寒いのすごく苦手だけど。
防寒しっかりそれから部屋をうんと暖めて。
好きなホットドリンク用意して映画を見ようかなー、それともどっぷり読書?
お部屋時間が楽しい季節でもある。
引きこもりなんて言わせない!
今年の冬は何して楽しもう。
(霜降る朝)
注意!びーえる風味。
すぅはぁ。すぅはぁ。
深く呼吸する。
「落ち着いた?」
頭の上から優しい声がする。
「もうちょっと…。もう少し強く抱きしめてくれる?」
返事する代わりにふふっと笑って俺の髪に頬を擦り寄せるようにして少し強く抱きしめられる。
肩に回された手が柔らかく同じ速度で子供をあやすように触れてくる。
大丈夫だよ。大丈夫だよ。そう語りかけられてるようだ。落ち着く。
しばらくそうしてもらって顔をあげると、すぐそこにある柔らかい笑顔が落ちてきた。
「久しぶり」
久しぶりに会えたね。
そうにっこりと笑った。
「もう大丈夫…」
身体を離そうとしたけどぐいっと引き寄せられた。
「もうちょっとくっ付いていよ」
俺にも充電させてよー。
笑った声が降ってきて。
それだけで心が満たされる。
「そっちから抱きついてくれるのうれしいなー離れたくないなーなんてね」
楽しそうな声。
いろんな事に疲れて歩いていた先に彼が居て、思わずかけ寄って抱きついてた。
一緒にいると心が落ち着いて、触れてると満たされる感じがする。
この人のそばに居ると呼吸が出来る。そんな感じ。
抱きしめられたまま左右にゆらゆら揺らされる。
「そろそろ俺に落ちてくれてもいいのになー」
ずるい俺は聞こえないふりをした。
まだこのぬるま湯に浸っていたいんだ。
ゆらゆらと揺れながらそっと息を吐いた。
すでに落ちてるんだけどね。
(心の深呼吸)
この糸が本当に願ったその先に繋がっているのなら、
がむしゃらに手繰り寄せて手繰り寄せて。
今度こそ捕まえて離さない。
また巡り会えたら何をしよう。
そうだな。
君の美味しいものをお腹いっぱい食べてくだらない事で笑ってそれからそれから。
一緒にやりたい事が沢山あるんだ。
お願いだから、戻ってきて。
🐳(時を繋ぐ糸)
(落ち葉の道)
また今日も書けない悔しい。
かさりかさりと後ろで音がする。
振り返らなくても分かる。
いつも見守る彼の音。