いちごミルクパン

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12/2/2024, 11:13:24 AM

 彼は、陽だまりの人である。
 たくさんの人たちが、彼のそばへ日向ぼっこしに来る。暖房やヒーターより、はるかに暖かいらしい。特に冬の寒い日には、先を競うように人々が彼を囲み、暖をとろうとする。ただ、世界中の人全てを抱えられる程の守備範囲はないらしい。彼を囲う人を囲う、凍える人々もいる。
 一方暑い夏だと、彼の周りは閑散となる。むしろ、常にぽかぽかな彼は嫌煙されているのだろう。
 また、季節問わず、暗い夜には一定の需要があるみたいだ。彼は光でもあるから、人々の物価高の時代、電気代を節約できるのだろう。
 かく言う僕は、彼の  である。彼の光がぎりぎり届くところで、闇と一緒に彼を見守っている。僕の方から彼に近づかなくとも、彼はいつか、僕に光をくれるのだ。


            題:光と闇の狭間で

12/1/2024, 1:19:45 AM

「泣かないで。」
わたしは世界に言った。
「泣かないで。」
彼女はわたしに言った。
泣いていいのだと、世界は思っている。


              題:泣かないで

11/29/2024, 11:28:39 AM

 僕は高校生になってから、俳句をはじめた。
 もともと散文を書く人だったが、思いの外学校生活が忙しく、時間のかかる小説の執筆とは距離を置くようになったのだ。恥ずかしながら。
 そこで、お手頃な、と言うと聞こえが悪いが、世界で一番短い詩に踏み込んだわけだ。

 歳時記や句集を眺めていると、日本の四季の美しさをひしひしと感じる。その度合いは、日を増すごとに強まっていった。ついでに地球温暖化や異常気象への恐怖も高まるのだが、その話はまたの機会にしておこう。

 俳句をはじめてから、季節の境目の匂いを知った。
 春から夏になった瞬間、黄味が強い橙色の膜に包まれているような、懐かしい匂いがした。
 夏から秋になったその日、薄い赤紫色をした流体が自分の頭の横をゆったりと流れてゆき、胸のつまるような匂いがした。
 秋から冬になるときは、日常の匂いがした。虹の色と森の色をぐちゃぐちゃに混ぜたような、切ない色をした匂いだった。その匂いはゆるゆると形を変えながら、淡い淡い水色をした春に繋がってゆく。

 なんてことを大真面目に、僕は感じているのだ。俳人気取りの自己満足かもしれないが。


              題:冬の始まり

11/28/2024, 10:55:13 PM

貴方へ
 
前略
 貴方はよく、終わらせないで、と口にしています。しかしわたくしには、どうもその本意が伝わりません。
 何を終わらせたくないのでしょう。誰に願っているのですか。なぜ終わらせたくないのでしょうか。
───貴方のことが、いっそう理解しがたくなります。
 不変をお望みですか?新しいものが恐ろしいのですか?忘れたことに気が付かないのがお苦しいですか?
 質問ばかりで申し訳ごさいません。
 しかしわたくしは、この手紙を書くべくして生まれたのです。毎日死んで新しくなる、貴方への。
                    草草

                 貴方より
 
 
             題:終わらせないで