『ブランコ』
毎日公園にやってきて、ブランコに座る大人がいる。
お花が好きなのか、いつもお花を持ってきて、ブランコの柵のところに飾っていた。
大人がブランコで遊ぶわけがないんだから、あの人はお化けかもしれない。
でも、昼間に見えているから、お化けではないのかな。
「あの人はお化けなの?」
みんなに聞いてみたけど、誰も返事をくれなかった。
きっと、お化けと関わり合いになりたくないんだ。
みんな、お化けがこわいからブランコで遊ばなかった。
だから、別の公園に行ってしまった。
この公園には、僕とお化けだけになった。
お化けはブランコに座って、じっとしていることが多かった。
たまにこいだり、立ちこぎしたりするけど、楽しんでいる感じはなくて、暇つぶししてるみたいだった。
「ねえ、いつもここで何してるの?」
気になって、とうとうたずねてみた。
怒られるかもと思ったけど、お化けは微笑んでくれた。
「君に話しかけてもらえるのを待っていたんだよ」
私はこういう者です──お化けが差し出した名刺には、おじいちゃんのお墓があるお寺の名前が書かれている。
その時、急に思い出した。
くるりと空に舞い上がった地面、ブランコの白い柵を汚した赤いもの、救急車のサイレン、お母さんが悲しそうに僕を呼ぶ声。
どうしてお化けはブランコに花を飾ったのか、どうして誰もブランコで遊ばなかったのか、どうしてみんなが僕の質問に答えてくれなかったのか、全部に理由があった。
お化けはお化けじゃなくて、本当のお化けは。
旅路の果てに
長い長い旅をしてきたような気がするけど、何があったか、どんな経験をしたか、よく覚えていない。
ただ今は、視界いっぱいに砂漠が広がっていたし、足元に視線を落とすとダークブラウンの作業用ブーツを履いていた。
荷物は何も無い。
水筒すら持っていない。
天気はいい。
空は水色。
日差しが強い。
暑いか暑くないかといえば、不思議と暑くはなかった。
まだ旅を続ける気かと問われたら、正直、勘弁願いたい。
誰の足跡も残っていない砂の上を歩く気には、とてもじゃないがなれなかった。
たとえば隣に誰かがいたら、進む気になったかもしれない。
残念ながら、ここには自分ひとりきりなのだ。
振り返ったら、誰かがいるかもしれない。
でも、もし後ろにも誰もいなかったら?
だだっ広い砂の海を前に、だらしない音のため息を吐き出した。