sunrise
「おい、日の出だぞ。見ないか?」
旅先のホテルで夫に起こされた。見ると、水平線に一筋の光が見えていた。
海が見える部屋なのは知っていたが、日の出までは思い及ばなかった。得をした気分で、2人で眺めた。太陽はあっという間に昇りきった。10分前後のsunrise showだった。
「起こしてくれてありがとう」
「いや、一人で見るのはもったいないと思って」
夫はテレたように笑う。
「来て良かった」「うん」
定年退職した夫に旅行に誘われた時は、実は少し驚いた。それまでは仕事一筋で、家庭を顧みないし、私を労うことも無い人だったから。
私は仕事をしているし、夫は就活に励んでいる。それでも、この先そんなに長くは働けないだろう。
その後の人生は、家でこの人と鼻を突き合わせて暮らすのだ。少し前まではイヤだなと思っていたが、今のこの人なら良いかなと思い直した。
No.204
空に溶ける
「シャボン玉」という童謡があります。「シャボン玉とんだ屋根までとんだ」という、昭和世代なら、誰もが一度は歌ったことがある、子どもらしい可愛い曲です。
作詞は野口雨情さんという有名な詩人です。
ご存知の方も多いでしょうが、この詩は、8カ月で亡くなった、長女の死を悼んで作られた
ようです。何年か過ぎてからですので、雨情さんの中で、こなれてきたのでしょうか。
屋根まで飛んだシャボン玉は普通にこわれて消えましたが、次のシャボン玉は、生まれてすぐに飛ばずに消えました。だから風、風吹くなシャボン玉飛ばそと言っています。そう思って歌うと、切なくなります。
シャボン玉、みんな壊れずに、空に溶けるまで飛んでいけばいいのにね。
No.203
どうしても…
夫はこの家を処分して、老人ホームに入りたいと言う。この間言われて驚いた。
2人で働いて、40代で建てた家だ。そりゃ、子どもたちも巣立って、広すぎるとは思うけど、愛着がある。そんなに簡単に手放すなんて出来ない。
猛烈に反対したんだけど、夫は老後の生活環境のこととかいろいろ言っていた。売れるうちに、とも。
でも、嫌だな。どうしても…
(No.199妻の側)
No.202
まって
急に目の前が光った。銀色の粉が視界を舞っている。
自分の体が傾いたのは分かったが、とどまることが出来なくて倒れた。
意識が朦朧としている。
え?なにこれ?私、死ぬの?
待って!
No.201
まだ知らない世界
はーぁこれがキスというものね!
え?なに?
彼の唇が、首筋を這っている。
い、今こそ、まだ知らない世界に突入しようとしている!
No.200