シャイロック

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5/22/2025, 3:13:09 AM

sunrise

 「おい、日の出だぞ。見ないか?」
 旅先のホテルで夫に起こされた。見ると、水平線に一筋の光が見えていた。
 海が見える部屋なのは知っていたが、日の出までは思い及ばなかった。得をした気分で、2人で眺めた。太陽はあっという間に昇りきった。10分前後のsunrise showだった。
 「起こしてくれてありがとう」
「いや、一人で見るのはもったいないと思って」
 夫はテレたように笑う。
「来て良かった」「うん」
 定年退職した夫に旅行に誘われた時は、実は少し驚いた。それまでは仕事一筋で、家庭を顧みないし、私を労うことも無い人だったから。
 私は仕事をしているし、夫は就活に励んでいる。それでも、この先そんなに長くは働けないだろう。
 その後の人生は、家でこの人と鼻を突き合わせて暮らすのだ。少し前まではイヤだなと思っていたが、今のこの人なら良いかなと思い直した。

No.204

5/21/2025, 7:09:29 AM

空に溶ける

 「シャボン玉」という童謡があります。「シャボン玉とんだ屋根までとんだ」という、昭和世代なら、誰もが一度は歌ったことがある、子どもらしい可愛い曲です。
 作詞は野口雨情さんという有名な詩人です。
 ご存知の方も多いでしょうが、この詩は、8カ月で亡くなった、長女の死を悼んで作られた
ようです。何年か過ぎてからですので、雨情さんの中で、こなれてきたのでしょうか。
 屋根まで飛んだシャボン玉は普通にこわれて消えましたが、次のシャボン玉は、生まれてすぐに飛ばずに消えました。だから風、風吹くなシャボン玉飛ばそと言っています。そう思って歌うと、切なくなります。
 シャボン玉、みんな壊れずに、空に溶けるまで飛んでいけばいいのにね。

No.203

5/20/2025, 3:28:26 AM

どうしても… 

 夫はこの家を処分して、老人ホームに入りたいと言う。この間言われて驚いた。
 2人で働いて、40代で建てた家だ。そりゃ、子どもたちも巣立って、広すぎるとは思うけど、愛着がある。そんなに簡単に手放すなんて出来ない。
 猛烈に反対したんだけど、夫は老後の生活環境のこととかいろいろ言っていた。売れるうちに、とも。
 でも、嫌だな。どうしても…
(No.199妻の側)

No.202

5/19/2025, 1:21:26 AM

まって

 急に目の前が光った。銀色の粉が視界を舞っている。
 自分の体が傾いたのは分かったが、とどまることが出来なくて倒れた。
 意識が朦朧としている。
 え?なにこれ?私、死ぬの?
 待って!

No.201

5/18/2025, 8:29:47 AM

まだ知らない世界 

 はーぁこれがキスというものね!
 え?なに?
 彼の唇が、首筋を這っている。
 い、今こそ、まだ知らない世界に突入しようとしている!

No.200

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