どこへ行こう
さぁ、どこへ行こう!
定年退職してから、私は暇すぎて、妻の趣味の吹き矢を私もやると言ったら「いやよ、夫が趣味の場にいるなんて」と断られた。
かと言って、毎日家にいると邪魔にされる。どないせいっちゅうねん!
ということで、散歩に出ることにしたのだが、さて、どこに行こう。
この年になるまで働いてきて、プライベートな付き合いのある友人は居ない。男性はそういうのが多いらしい。女性は働いていても、仕事帰りに趣味の勉強をしに行ったり、ジムに通ったりする中で友人ができたりするらしいが。
そうか!今気づいた!私もこれから趣味を見つけよう!
とは言え、何をやれば良いかも分からない。カルチャースクールとか公民館の講座とかを調べて、手当たり次第に行ってみるしかないか。さぁ、最初はどこに行こう?!
No.177
big love!
私の中で一番大きい愛は、親の愛だと思っている。子どもを産んでから、怖いものは無くなった。この子たちを守るためなら戦える。まぁそんな場面は無いのだが。
そして、老いた今は、子どもたちに守られている。病を得たのもあり、家事を代わってくれたり、車に乗せてくれたり。
でも今でも、子どもを守るためならどんなことでもする!という気持ちに変わりはない。この子たちがどうにかなることを考えたら、気持ちがおかしくなる。
非常に単純なのが、親のbig loveである。
No.176
ささやき
昔は「花泥棒は罪にならない」なんて粋なことを言ったものだ。あまりの美しさに魅せられて、思わず1本手折ってしまうのは、しょうがないことだ。みたいに解釈したらしい。
だが今は、人さまの庭先に咲いた花を持ち帰ったら、もちろん罪になる。罪になるのだが・・・
ある日、駅からの帰り道、気まぐれで通った脇道の途中に、とてもきれいな花を咲かせている家があった。塀際にチューリップ、パンジーにビオラ、隅にはクリスマスローズやオダマキもあった。
私はこのオダマキがとても好きだ。クリスマスローズも俯いて咲くが、オダマキが俯いて控えめに咲くのがいじらしい。
紫色のその花が愛おしく可愛く、思わず手を伸ばして摘み取ろうとしたが、すんでのところで踏みとどまった。いけない、いけない、泥棒はいけない。
立ちがりかけた私に、ささやきが聞こえた。いつの間にか隣に、年配の女性が来ていたのだ。「お持ちいただいても良いですよ。株ごと差し上げます」「えっ、あ、でも」「とてもお好きなのが分かります。オダマキも、連れて帰ってもらったら喜びます」「本当ですか?実は摘もうと一瞬思ってしまいました。お許しください」「良いんですよ。私も年を取って、手入れもたいへんになってきました。庭を縮小して、駐車場にしようかなと思っていたぐらいです。お好きな方に連れて帰ってもらいたいです」
結局、そこにあったオダマキを全部、株ごといただいて帰った。7株ほどあった。あとで何か、あのご婦人が好きそうなモノをお届けしよう。
早速、猫の額みたいな我が家に植えた。オダマキは長く楽しめる。私は長く幸せな気分だった。あの時、摘み取ってしまわなくて良かった。
No.175
星明かり
星明かりというハンドルネームの人が居た。掲示板でのお付き合いだから会ったことは無いが、繊細でよく気がつく、女性・・・だったろうと思う。
掲示板の中でも、プロパイダの名を冠していたせいか、大人しい板だった。みな、季節のこととか、軽い恋愛相談とか、つまりは書くことと、返信をもらって、そのやりとりを楽しんでいた。荒れていた板も有るので、平和なところに着地して良かったと、その後思ったものである。
しかし、そんな中でも、彼女はすぐ傷つき、1ヶ月も現れなくなる。機嫌よく楽しくやっているときには面白い人なのだが、琴線が他の人とちょっと違い、思わぬところで傷ついて辛くなるらしかった。
私は、中年になってから始めたので、その板の相談役みたいなポジションだった。それで、星明かりさんのそんな時の相談に乗ったりして、信頼して仲良くしてくれていた。
だが、ある日突然また、彼女は姿を消した。
毎日現れていた人が、ぷっつり来なくなるのだから、みんな「星明かりさん、どうしたの?」と聞いてくるが、私にも分からなかった。前日は円満に話が終わって「よく眠れそうです」と言ってくれてたのになぁ。
で、それっきり彼女は来なくなり、数年後には掲示板そのものが閉鎖され、そのままだ。
ネットの繋がりの儚さを感じた、最初の出来事だった。
星明かりさんはどうしているんだろう?と、今でも時々思い出す。
No.174
影絵
「ほら、るか見てごらん、ワンワンだよ」
白い壁に影絵を映して見せたら泣かれた。
オレのワンワン下手だったのかなぁ?
再度挑戦だ!
「るか、るか、キツネさんだよ」
やっぱりダメみたいだ。泣いてママのところに行ってしまった。
幼い子どもってたいへんだな。何に喜んで、何が嬉しくて、何を怖がるかちっとも分からない。と、思ってると、急に「パパ!」と嬉しそうにしがみついてきたりする。
「どうかしたの?るか泣いてたよ」
「うん、影絵をさ、見せたら泣いた」
「あー、ここで?」
「うん、後ろから光当ててな」
「多分、急に薄暗くされて、光の中でパパは逆光でよく見えないし、影絵を見てる場合じゃなかったのね」
なるほどな。影絵を見せることにばかり捕らわれていた。
「るか、お馬さんしよう」
「あーい」
泣き顔はどこに行ったのか、嬉々としてオレの背中によじ登ってくる。
可愛い!でも難しい!
両親学級で「親は子どもと一緒に成長するんですよ」って言われてたけど、そうなんだな。オレも、るかと一緒に成長するぞ!
No.173