シャイロック

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12/24/2024, 3:45:42 AM

プレゼント

 お誕生日やクリスマス、敬老の日、何かをプレゼントすると、必ず文句を言う母だった。
「こんな色、私に似合わないよ」「このデザインは派手だねぇ」「今年は◯◯が欲しかったのに」私も妹もいつものことだから、あーはいはい、とりあえず渡したよ。的な感じで取り合わない。
 でも、初めて自分のお小遣いでプレゼントした手袋にケチをつけられたときは、大きなショックだった。その後も、何を渡してもそうだったので、こう言う人なんだ、と思うことにしたけど。
 あれは何なんだろう?照れなのか?喜んで受け取れないのは、変なプライドだろうか?
 私なら、金額や好みに拘らず、相手が自分を想定して、いろいろ見て考え選んでくれたプレゼントだから、とにかく嬉しい。喜ぶ。
 そういう風に、プラスの感情を出せないのは悲しいことだと思う。だから母にも、娘が選んだプレゼント、演技でも良いから喜んでほしかった。

12/23/2024, 3:19:29 AM

ゆずの香り

 香水、入浴剤、ハンドクリーム、芳香剤、制汗スプレー、およそ、ゆずの香りを謳っているモノで、本当にゆずの香りがした試しがない。(ポン酢やドレッシングなど、食べ物関係は違う。本当のゆず果汁が入っているからだ)
 バラやムスクは、けっこう近いかなと思うが、してみると、ゆずの香りの再現は難しいのだろう。シトラスと謳っているものは、なんとなく柑橘系かなと思うのだが、柚子は違うんだなぁ。
 バラの香りを再現するために、調香師はほんのほんの少しだが、うんちの香を混ぜるそうだ。香りの再現はそんなデリケートなものなんだね。
 もしかしたら、香り界隈では、ゆずの再現はノーベル賞レベルだったりして。

12/22/2024, 6:59:01 AM

大空 

 大空を飛べたら、どんなにステキだろうと、小さい頃の私は思っていた。
 でも、大きくなった今、とんでもないことに気がついて、その夢は潰えた。私は極端な高所恐怖症だ。椅子の上にだって上がると足がすくむ。
 この年になって、一度も海外に行ったことがないのは、そのせいだ。飛行機は地に足が着いていないから怖い。
 因みに、水の上とは言え、船も同じだ、地面にくっついていない。
 だから、私の大空のイメージは、下から見上げるいつもの空だ。見晴らしのいいところから見れば、充分大空だが、いつも眺めている空は、建物や樹木、街灯、高架に遮られて、大きく見えたとしても中空(ちゅうぞら)だ。
 でも、地球を覆っているこの大空は、どこの国にも繋がっていると思うと、なんだか嬉しくなる。「私は地球の一員なんだなぁ」って思うから!

12/21/2024, 7:09:27 AM

ベルの音

 ドアに取り付けたカウベルが鳴った。チラッと入り口の方を見ても誰も居ない。深夜2時のスナック、流石に今から来る客は滅多にいない。
 私は洗ったグラスを拭きながら、形ばかり「いらっしゃいませ」と言ってみた。すると、
「マティーニを」と、かすかな声が聞こえた。
 ああ、いつもの人だ。と、私は思った。月に一度ほど、こうしてやってくる。
私はそっとマティーニのグラスをカウンターに置いた。「お待たせしました」
 それだけだ。
 マティーニは減ることがなくそのままずっとあるし、それ以後、彼女の声を聞くことはない。
 なにか言いたくて、この店に来るのだろうか?イケメンでもない私が目当てではないだろうし、他の客目当てならもう少し早く来るだろう。
 それでも今夜は特別だから、私はつぶやくように「メリー・クリスマス」と言った。
 カウベルがまた鳴った。今まで、帰りのベルの音はしたことがない。満足してくれたのだろうか。
 私はもう一度、さっきより少し大きな声で言った。
「メリー・クリスマス」


 

12/20/2024, 3:55:56 AM

寂しさ

 百人一首の1つに、良暹法師の
「寂しさに宿を立ち出でて眺むれば何処も同じ秋の夕暮れ」というのがあります。
 一人ぐらしで、なんとも寂しくて外に出てみたら、やっぱりどこをみても秋の夕暮れの寂しい風景だ、という意味です。宿って、旅の宿ではなく、自分の住まいのことのようです。
 秋の夕暮れの寂しさというのは、平安時代はもっともっと深かったと思います。
 街の灯りは無いし、自宅の門灯、玄関灯も付いていません。月もまだ出ていないと、「これから暗くなってしまうんだな」と、黄昏の景色を眺めたことでしょう。
 私も含めて、現代に生きていると、黄昏時の気配にも気が付かなかったりするときがあります。燈明の揺れる光ではなく、蛍光灯やLEDの灯りが、スイッチひとつでパッと点きますから。
 そういう意味でも、古い時代のわび・さびに、半分は憧れが有ります。でも、明るい現代で良かった!

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