その女には一人息子がいた
夫は早くに事故で死んだ
女にとっては息子がすべてだった
その為に懸命に働いた
懸命に育てた
息子は母親思いの優しい真面目な青年に成長した
やがて戦争が始まり息子は戦地に行った
女の祈りの日々が始まった
つらい日々を何年も耐え忍び
やがてついに息子は生きて帰って来た
だが、
息子は頭の中を母を否定する思想に書き換えられていた
女の腕を拒絶し口汚く罵った
女は絶望し無気力になりその心は永遠に破壊された
善悪は何処にあったのか
何が正しかったのか
何が間違っていたのか
そんなものは始めからどこにもなかったのだ
あったのは無償の愛だけだった
そしてそれはあまりにも無垢で
容易く踏み躙られた
この話を聞いたのはまだ子供の頃だ
それ以来時々思い出す
女の老いて曲がった背中や
深い皺に刻まれた悲しみを思う
それでも女は息子を呪うことなく愛し続けていたのだろうと
今の私には分かる
流れ星に願いを込めてお祈りすれば
片想いは両想いになるよ
誰かが言ったそんな無責任な言葉を信じるつもりはなかったが、あまりにも退屈で暇な夜だったのでベランダに出て空を眺めていた。
煙草を3本吸い終わった頃にスマホに着信があった。
今度、結婚することになってさ
すうっと漆黒の空に星がひとつ涙のように流れた
おめでとう。よかったね。
願いを掛ける隙もなかった。
「まったく。どこかへ消えて行ったのは星だけにして欲しいな」
「なんのこと?」
不審そうに問い返して来るのが面倒くさくてスマホを切る。
それからまたもう1本吸ってみたけれど、もう二度と流れ星は現れなかった。
そんなルールがあるなんて驚いたよ
誰が作ったの
皆で作っていったんだろうね
それで今では皆がそれにがんじがらめでさ
外から見たら大分変だよ、あなた達
一度その円環から抜け出して
こっちからその中を見てご覧
本日の心模様
晴天
やった!
老いた両親と弟夫婦と息子夫婦と娘夫婦が私の家に集まった
全員で写真を撮った
いつもはそういうイベントが嫌いなんだけど今日は嬉しかった
皆、それぞれにいろんなことがあって
それを懸命に折り合いをつけて
今日、集まった
言いたいことは一杯あったが
顔を見たら笑顔しか出なかった
楽しかった
写真はずっと宝物になるだろう
ひねた思想などもうどうでもいいのだ
そういうのはもうほんとにどうでもいい
嬉しいときは嬉しくなればいい
歓びを出し惜しみするのはもう時が勿体ない
これからは楽しいことを見つけていきたい
どんなことにもきっとどこかに
ひっそりと隠れているはずだ
たとえ全てが間違いだったとしても
あなたの生きた姿は正しい
人生に正解などないのだから
生きたことが美しい
あなたの生は祝福されている