黒い
哀しみの色を帯びた
安らかな瞳
大きな心の傷を
ありありと湛える
その眼差し
深い諦念と慈愛
最期にあなたが行きついた
安らかな瞳に
心奪われる
都会から郊外へと走る夜の電車。
乗客は段々と減り、気がつけばこの車両は僕と隣に座る中年の男だけとなった。
がらんとした空間に男がふたり。
そういえば始発の時は若い女の子がここに座っていたような気がする。
うとうとしている間に、女の子は降り代わりにこの男が座ったのだろう。
そこからはずっと隣りにいる。
僕は何だか気詰まりでスマホを弄り続けている。
男は腕を組み少し首を前屈みにして眠っているようだ。でもそういうふりをしているのかもしれない。
ガタンゴトンと小気味良い音が車内に響く。
外は真っ暗だ。
ガラス窓に僕と中年の男の並んで座る姿がくっきりと映っている。
もう誰も乗ってこない。
このまま僕は終点まで乗るのだけれど、
男はいったいどこまで行くのだろう。
警笛の音が鳴り響き、暗闇に吸い込まれて行く。仕事で疲れ切った僕の体もこのまま夜の世界に溶け込んでいきそうだ。そう思った時、不意に男の手が僕のズボンの膝辺りをギュッと掴んだ。
その時は一緒に
ずっと隣で見守ってやるよ
男の背が急に縮み、顔は猿のようにクシャクシャになった。それはいつか子どもの頃に読んだ絵本に出て来る森の悪魔にあまりにも似ていた。
ピーッという警笛を再び鳴らし、電車は終着駅を超え、闇に飲まれていった。
あなたのことをもっと知りたい
昨年の春からずっと考えている
あなたのことが分からない
あなたをもっと知りたい
毎日考えて考えて、
気がつけば夢の中まで考えていた
もしも今、
手術を受けるような事になったら、
全身麻酔の状態で
私はきっとあなたの名を呼んでしまうだろう
いつか読んだ鏡花の小説のようだが、
現実的には洒落にならない
これじゃまるで恋してるみたいではないか!まさか!
平穏な日常
それは
痛みのない時間が
24時間続くこと
この冬とうとうこたつを買った。
猫達のためだから
あいつはそう言い訳する。
一緒に暮らし始めた初めての冬、あんなにこたつを買おうと言ったのに。
部屋が狭くなるし掃除の邪魔だしなんか湿っぽくて不潔だから嫌だ
そんな偏見に充ちた意見で絶対に承諾しなかった癖に。
去年の春、二匹の猫が我が家に来てから状況は一変した。
猫達の為にこたつを買う
初霜が降りた朝、猫の背を撫でるとゾッとするほど冷たくて、すぐさまあいつは高らかに宣言した。その週末、さっそくホームセンターへと車で急いだ。
今、ふたりで肩を寄せ合い、こたつに足を突っ込んで、ミカンを食べながらテレビを見ている。
気がつけばそういう時間が増えた。
こたつの中には二匹の猫が収まっている。
何がとは分からないが、嬉しくなる。
このつつましい空間には、愛と平和が結集している。