kinako

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都会から郊外へと走る夜の電車。
乗客は段々と減り、気がつけばこの車両は僕と隣に座る中年の男だけとなった。
がらんとした空間に男がふたり。
そういえば始発の時は若い女の子がここに座っていたような気がする。
うとうとしている間に、女の子は降り代わりにこの男が座ったのだろう。
そこからはずっと隣りにいる。

僕は何だか気詰まりでスマホを弄り続けている。
男は腕を組み少し首を前屈みにして眠っているようだ。でもそういうふりをしているのかもしれない。

ガタンゴトンと小気味良い音が車内に響く。
外は真っ暗だ。
ガラス窓に僕と中年の男の並んで座る姿がくっきりと映っている。
もう誰も乗ってこない。
このまま僕は終点まで乗るのだけれど、
男はいったいどこまで行くのだろう。

警笛の音が鳴り響き、暗闇に吸い込まれて行く。仕事で疲れ切った僕の体もこのまま夜の世界に溶け込んでいきそうだ。そう思った時、不意に男の手が僕のズボンの膝辺りをギュッと掴んだ。

その時は一緒に
ずっと隣で見守ってやるよ

男の背が急に縮み、顔は猿のようにクシャクシャになった。それはいつか子どもの頃に読んだ絵本に出て来る森の悪魔にあまりにも似ていた。


ピーッという警笛を再び鳴らし、電車は終着駅を超え、闇に飲まれていった。

3/13/2023, 3:47:51 PM