波にさらわれた手紙
「先輩!」
海辺の高校から、堤防沿いの歩道へ。
帰路につく後ろ姿を追いかけて、声をかけた。
「これ、読んでください」
極度の緊張で可愛らしさの欠片もない顔なんて見せられなくて、俯きがちに手紙を差し出す。
「俺に?」
戸惑いがちの声に、こくり。
あからさまにならないようにと考え抜いて、爽やかなブルーの封筒に包んだ、私の気持ち。
が。
びゅわり。
吹き飛ばされた。
突風に煽られて、海の方へとひらりひらり。
ぺしょりと、濡れた砂浜に落ち。
サバンと、小波に喰われて消えて行った。
「え」
体感、秒の出来事だった。
「ごめん!」
慌てて砂浜に降りようとする先輩のカバンを、咄嗟に掴む。
「え」
「あ」
ななな、なんで引き留めちゃったんだろう。
でもでも、びしょびしょのラブレターなんて。
おろおろして、離した私の手を。
今度は、先輩がつかんだ。
「手紙、ごめん」
「いいいい、いいえッ」
「直接、聞かせてくれる?」
まじか!!
波よ、手紙を返してくれ!!
8月、君に会いたい
揚げなす。
君しか勝たん。
盆の帰省。
山奥のばあちゃんち。
ばあちゃんが作ってくれる、揚げなす。
もちろんなすは、ばあちゃんの畑から。
朝どりの、ツヤッツヤな、七三ヘアがバチッと決まった紳士めいた、イケなす。
厚めの輪切り、そのまま素揚げ。
濃いめの焼き色、びったびたに油を吸った、なす。
煮浸しなんかにはしない。
そのまま、生姜醤油でいただく。
相棒は、もちろん白米一択。
余計なものはなにもいらない。
ビールすらじゃまである。
熱によってとろけた果肉と、油がからみあい、
じゅわりと広がる甘味を、生姜醤油がピリリと引き締める。
米、米が進んで仕方ない。
美味いかい?
にこにこの笑顔で聞いてくるばあちゃんという存在が、
何よりのうま味調味料。
盆が待ち遠しい。
眩しくて
まっすぐな眼差しが突き刺さる
負を顧みぬ心根にえぐられる
その無限の可能性に呼吸をわすれる
若さに
息の根をとめられる
昂る。
荒ぶる。
駆け巡る。
この胸を持つ、熱は何だ。
驚喜か。
さらなる。
狂喜か。
沸き立つ。
熱い、鼓動。
タイミング
あなたが目をさます前に、目覚めた日。
あなたが目をさます瞬間を待つ、このひとときがすき。
ゆるゆるの寝顔。
寝息はやすらか。
おでこは全開。
まつげがふさり。
すうっと。
深く、息がすわれて。
のびきった眉間が、きゅむと寄る。
ふるえるまつげ。
こまかな瞬き。
あなたの指先がシーツをたどり。
ふれる、指さき。
わたしをみつけて。
照れくさそうにわらう、その瞬間。
とくんとはねる、わたしのこころ。
だいすき。
だいすき。
あなたが、だいすき。