波にさらわれた手紙
「先輩!」
海辺の高校から、堤防沿いの歩道へ。
帰路につく後ろ姿を追いかけて、声をかけた。
「これ、読んでください」
極度の緊張で可愛らしさの欠片もない顔なんて見せられなくて、俯きがちに手紙を差し出す。
「俺に?」
戸惑いがちの声に、こくり。
あからさまにならないようにと考え抜いて、爽やかなブルーの封筒に包んだ、私の気持ち。
が。
びゅわり。
吹き飛ばされた。
突風に煽られて、海の方へとひらりひらり。
ぺしょりと、濡れた砂浜に落ち。
サバンと、小波に喰われて消えて行った。
「え」
体感、秒の出来事だった。
「ごめん!」
慌てて砂浜に降りようとする先輩のカバンを、咄嗟に掴む。
「え」
「あ」
ななな、なんで引き留めちゃったんだろう。
でもでも、びしょびしょのラブレターなんて。
おろおろして、離した私の手を。
今度は、先輩がつかんだ。
「手紙、ごめん」
「いいいい、いいえッ」
「直接、聞かせてくれる?」
まじか!!
波よ、手紙を返してくれ!!
8/3/2025, 8:27:15 AM