ウエディングベルの音が鳴り響く夕方
壮五と手を繋ぎこれからの未来に思いを馳せていた。
ドンッ!!
私の足元で友人の子が転んだ。たしか今年で7歳の男の子
「大丈夫?怪我ない?」
「大丈夫です!おねえさんのスカート柔らかくて綺麗ですね!」
「ありがとう。よかった怪我なくて、気をつけるんだよ」
その子は大切そうに手で何かを包んでいた。その子は近くにある草むらまで歩いて行き、カエルを自然に放った。私が後少しで気づかず踏んでしまっていたかもしれない。その子の優しさに触れた瞬間だった。そして、その子に壮五の面影をみた。
そして子供の頃同じような経験をしたなぁと思い出す。
友人「ねぇねぇ!〇〇あっちで縄跳びしよ!」
「いいよ!」
「うわっ!!!びっくりした、、、大丈夫?なんかあった?」
「ごめんね。急に目の前でしゃがまれてびっくりしたよね。」
「〇〇さんが後少しで踏みそうになってたから。」
そう言った壮五の手の中にはもう死んでしまったセミがいた。
「そのセミどうするの?」
「土に埋めてあげるんだよ。一生懸命生きたんだね。」
綺麗な服を汚してまで、死んでしまったセミをつぶれないように守った壮五を見て、自分も生き物の命を大切にするようになった。
「壮五くん!委員会何にするの?」
「僕は生徒会かな。」
「どうして?」
「みんながより良い学校生活を送れるようにするためかな。」
「そうなんだ!じゃあ私も生徒会入ろ〜」
「〇〇、今度ライブに行くんだ。一緒に行ってくれないかい?」
「いいよ!全然分からないかもしれないから、色々教えてね!」
「もちろんだよ!楽しみにしているね!」
「僕、〇〇さんのことが好きです。よろしければお付き合いしていただけないでしょうか。」
「壮五、堅いよ!!笑。もちろん!」
「〇〇さん、僕と結婚していただけませんか。生涯をかけて幸せにします。」
「よろしくお願いします」
今思い返すと、何かの始まりはいつも壮五だった。壮五が生徒会に入ったから自分も生徒会に入って色々な力を身につけられたし、壮五が好きなバンドも今では私も好きだ。壮五が告白してくれたから、プロポーズしてくれたから壮五と一緒になれた。壮五のお陰で今の私があるし、壮五のお陰で今幸せである。
「ねぇ、壮五。子供たくさん欲しいね。」
「そうだね。家族でたくさん旅行もいこう。」
「壮五、ありがとう。私、今幸せ。」
「僕も幸せだよ。」
「ボクはキミを幸せにできない、、、」
その言葉最後に彼は画面の中から出てきてくれなくなった。
彼とは16歳のときバレエの留学先で出会った。
「はじめまして。九条天です。」
「はじめまして。〇〇です。天くんって呼んでもいい?」
「いいよ。日本人の子がいると思わなかったから、すごく心強いよ。」
「こちらこそ。天くんがきてくれて嬉しい。」
初めての話したのは、初めて天くんを見た次の日のレッスン終了後だった。
最初の印象は体が小さいけど、踊りは大きく、とても綺麗な顔立ちをした青少年。
明らかに人より努力してきたのだと分かった。
天と出会ってから、あっという間に天の留学期間が終わりに近づいていた。
最初はお互い探り探り話していたものの、今では休日に出かけたり本音を話す仲になっていた。
天の帰国まであと1週間。私も天も17歳になった。
「ねぇ、天。」
「どうしたの?」
こっちを振り向いた時、天は確実に私の本音を全て見抜いたように見えた。
「ボクから話してもいい?」
少し緊張した面持ちで天は私に問いかけた。私は少し嫌な予感がしたものの、天の表情をみたら咄嗟に頷いていた。
「きっと〇〇はボクがバレエダンサーを目指してここに留学してきたと思ってるよね。でも、実は全く違うんだ。」
私からしたら否定したい事実だった。
正直これまで、日本のバレエを習ってる男性の中で明らかに天はレベルが違った。
繊細な踊りと確かな演技力。プロになるには充分すぎる実力だからである。
「ボクはある人のために、日本で、いや世界で1番のトップアイドルになる必要がある。」
天がアイドル、、、その言葉を聞いた瞬間、すぐに天がアイドルとして歌い踊る姿が想像できた。
すごく嫌で切ない感情に全身が支配される。
『アイドルになる。』
それは私に別れを告げているようだった。
天は別次元の人になってしまうのだ。
「でも、〇〇と同じ未来を見たいんだ。」
全く想像もしてなかった音が脳に響く。
「え、、」
「〇〇と一緒に暮らして、普通の家庭を築いて、、、」
声が聞こえなくなった。俯いていた顔を上げると、天の頬に一筋の涙が伝っていた。
「天、、、?」
「ごめんね。ボクがキミを幸せにしたかった。」
「私、今幸せだよ。天と一緒に踊れて、他愛もない話をして、将来に思いを馳せて、、、」
「ねぇ、天。私に少し時間を頂戴。そうだな、、3年。3年もあれば天も私も、、、」
「そうだね。分かった。キミを待ってるよ。」
天は全てを捨てたと同時に何かを失う覚悟をしたような顔をして頷いた。
それから2年後、天は『TRIGGER』のセンターとして日本を代表するアイドルとなっていた。
天はやはり昔とは違う笑顔でファンを魅了していた。
さらにそこから1年、、、プロのバレリーナとして主役として初めての舞台に私は立っていた。
私が演じたのは『ジゼル』
ジゼルは心臓が弱いが踊るのが好きな女の子だ。婚約者の浮気が原因で亡くなってしまうが、森に住む男性を踊らせて殺す幽霊から婚約者であった彼を守る話である。
バレエの物語の中でも悲劇的な話である。
終演後舞台裏に懐かしいが逞しくなった背中が見えた。
「て、、ん、、、、」
「〇〇久しぶりだね。すごく美しかった。」
「天もすごくかっこよくなったね。」
「ありがとう。」
沈黙が続いた、、、、、、
「〇〇、いままでありがとう。〇〇のおかげでここまで頑張れた。」
「え、、、どういう、、こと、?」
「ボクはキミを幸せにできない、、、」
「ちょっと待って、、!私ずっと、!!」
天は私のことを抱きしめた。顔は見えないが隣で泣いているのだけは分かった。天は私に話す隙も与えず、何も言わずに暗闇に消えていった。
「さよなら〇〇。愛してるよ。」
幻聴だったかもしれない。微かに耳に届いたその言葉は今でも耳元で響いている。
そして今日も私の家のテレビでは天の甘い声が響いている。
ブーッブーッブーッブーッブーッ
スマホの音が鳴り止まない。
今日は会社の人たちと打ち上げで居酒屋に来ている。
彼氏にはもちろん伝えてあって、誰がいるかまで伝えた。
今回は私の企画が通り、発売記念の打ち上げで
私はいつもより飲んで酔っ払っていた。
時間も忘れ楽しんでいた時、
同期「さくらスマホ鳴り止まないけど、、、」
同期から渡されたスマホは何百もの通知を知らせていた。
『ねぇ、いつ帰ってくるの?』
『今何時かわかってる?』
『門限すぎてるけど』
『男の人いるんだよね?』
『浮気?』
『返事くらいしたらどう?』
『楽しみすぎてスマホも見れないの?』
『俺より大切な人がいるわけないよね』
『さくら』
『聞いてる?』
『愛してるから帰っておいで』
『何してるの?』
『あっ、既読ついた』
『まだ?』
『さすがにまだ居酒屋とか言わないよね』
あまりの恐ろしさにスマホの電源を落とした。
彼は居酒屋の場所も知っているため、解散を促し姉の家に逃げ込んだ。
次の日休みということもあり、姉の家で1人でニュースを見ていた。
「昨日、東京都〇〇区の〇〇付近で20代男性のーーーー」
場所は昨日の居酒屋の近くで、殺されたのは同期だった。
仲良くしてくれていた人の死に動揺と絶望が押し寄せる。
ピーンポーン
「はーーい!」
来客が来たのか在宅ワーク中だった姉が玄関に向かう。
「イヤーーーーーーッ!」
ドサッ
えっ、お姉ちゃん?
「昨日振りだね。さくら。」
「迎えに来たよ。帰ろうか。」
視線の先には姉が赤く染まり倒れていた。
あ、、、、、逃げられない
愛があればなんでもできる?
「あんた調子に乗らないでよ」
「お前なんかが快斗くんと付き合ってるとかありえないんだけど」
「ブスのくせに」
何度こんな言葉たちを聞いただろう、、、
「ごめん‥「あのさ、俺の彼氏になんか用?」
「なに?男同士だから?」
「俺の可愛い彼氏傷つけられちゃ困るんだけど」
少しの沈黙の後、彼女たちは目を見合わせ蔑んだような視線で見下ろしてきた
「え?だるくね?」
「普通にキモいわ」
「いくらイケメンでも男同士ってw」
そう言って同じクラスの女子たちは去っていった。
「ごめんね」
「蒼が謝ることあった?来るの遅れてごめんね」
「ううん。ボクが言い返せないの悪いんだ」
「それにボクが好きになっちゃったから」
「あ〜、それなら俺の方が先に好きになったから」
「え?」
「てか今日俺ん家来る?そろそろ親に紹介したい」
「うん///」
「お母さんただいま」
「あら、おかえり。隣の子は?」
「俺の彼氏」
「、、、、、、、、、そう」
「じゃあね苦しい世界」
「来世では幸せになろう」