夢を見てたい
夜が必ず朝となるように、止まない雨はないように。
実現した瞬間から、夢は夢でなくなる。
夢は必ず醒めるものなのだ。どんなに願っても。
夜見る夢を好きにいじれても、つまんないよ?
よくいいなって言われるけど。
なんでも思い通りにできても、所詮は夢。現実じゃない。
目を覚ました時のギャップにため息しかないんだから。
ずっとこのまま
それは、呪文。
それは、呪い。
それは、恐怖。
それは、地獄。
それは、絶望。
時に、希望。
時に、喜び。
時に、歓喜。
時に、幸福。
時に、安堵。
さて。あなたにとってのこの言葉は何になるのだろうか。
色とりどり
磨いた木の床に白いファーをひいて、転がす裸石たち。
アクセサリーとして細工される前のカッティングされた貴石を集めるのが、
唯一の贅沢だ。
小さくてもきらきらと輝くダイヤモンド。
ガラスにぽつりと一滴落とされた血のようなルビー。
広い海のど真ん中を抜いて凍らせたサフィア。
ネオンブルーに中から光をこぼすパライバトルマリン。
キラキラ星が落ちて転がったシトリン。
太陽の光を透かす5月の若葉のペリドット。
深く熟成された洋酒を凝らせるトパーズ。
テーブルに溢れるハチミツみたいな琥珀。
甘い苺ミルクを思わせるローズクォーツ。
夜明けの空の一筋切り取ったパパラチアサファイア。
金の雨が降る時間を閉じ込めるルチルクォーツ。
そして、夕闇迫る紫に染まる空気のタンザナイト。
囁やかに輝くルースの中にそっと寝転がってぼんやりするひとときは、
何にも代えがたい時間なのである。
雪
めったに降らないトコ住みだから、降ってくるといくつになってもテンションが上がる。
上から、きれいに言えば羽のように、きちゃなく言えばホコリのように降ってくるのを、寝転がって延々と眺めているのが好きだ。
積もった雪に倒れ込むのも好きだが、それが出来るほどの厚みになることはほぼない。
一番好きなのは、雪が降った後の森と真夜中の町の中。
しんと静まり返って、鳥の声も車の音も聞こえない。耳が痛くなるほどの静寂とまではいかないものの、自分が時折吐く息の音や鼻をすする音だけがある。
頬がわずかに温かみを増して、赤くなっているのだろうことを感じる。
自分だけが世界に存在するのを、強く感じる瞬間が好きなのである。
張り詰めたような空気も、寒い時のそれとは違う緊張。
なんて格好つけて書いてみたが、誰も足跡をつけていない場所にわざと駆け込むなんて子供っぽいことすんのが好きなのだ。
今年は降るんだろうか。
君と一緒に
「あの世ってあると思う?」と聞かれたことがある。
私は、昔から「人間生まれてくるのも死ぬのも一人」主義だから、
聞かれるたびに答えてきたのとおんなじ言葉を言う。
「ないよ」
いつもなら「寂しい人」と返ってくる言葉は、そん時は違った。
わずかな間があって、小さくぽそっと
「じゃあ、あっちにいっても会えないんだね」
ため息のような、少し傷ついた色を浮かべて、でも思わず呟いたという感じで
母は口にした。
たぶん聞こえているとは思っていないんだろう。その時私は晩ごはんの支度をしていたから。イヤホンをして動画を見つつキャベツの千切りを作っていた。
英語のセリフの間、聞こえた言葉にそっと母の方を見る。タブレットの画面を見ている母は、声の色とは違ってまったく何でもない様子だ。
この世に生まれる前からずっと一緒でも、まだそう言ってくれるんだなぁ。
思わず胸がぎゅっと締め付けられて、最近どうももろくなった涙腺が緩んだ。
だって死んだら人は生まれ変わるっていうでしょ。
あの世があって会えるなら、またここでずっと一緒ってなってしまったら。
生まれ変わる意味も必要もなくなっちゃうでしょ。
永劫の別れなんて、たった一回で十分だ。