Akari✿

Open App
10/17/2024, 5:08:39 PM

入り口前に貼られたポスターを見上げながら思う。


できることなら着替えてから来たかった──




(ここで倒れたら今朝目覚めた瞬間へタイムリープ…なんてことにはならない、よね)

視線を落とすと嫌でも目に入る茶色いシミに
はぁ…、と今日何度目かの溜息が漏れた。

朝から顧客からのクレーム対応に追われ、ようやく一息つけたのは午後15時。
すっかり冷めてしまった珈琲を淹れ直そうと伸ばした指が、紙コップを弾いてしまったがために
デスクへと盛大にぶちまけてしまった挙句、パンツにまで飛び火してしまい気分は最悪だった。

余所見をしていたのは認める。自分が悪い。
けれどシミを見るたびに恥ずかしい記憶は蘇るし、凹むのループから抜け出せない。
一旦家に戻って出直そうかとも考えたが、時間的にそれも厳しそうで断念するしかなかった。

せっかく楽しみにしていた展示会なのに、汚れた服で訪れる羽目になるなんて…なんかもう泣きたくなってくる。




初めての展示会へ着ていくには、どんな服がいいだろう。
次から次へと服を引っ張り出しては一人ファッションショーを繰り広げた。
先日購入したばかりの大きなフラワープリントをあしらったモノトーンのワンピースにしようかな、と鏡の前で合わせながら微笑む自分の姿に、ふと我に返った私は手を止める。

(あまり気合の入った感じだと同僚達から質問攻めに合いそうだし面倒かも……)

そう思い、あれこれ考えてやっと決まったのは、

白いラッフルスリーブのシフォンブラウスにベージュのパンツ という結局シンプルなもの。
けれど割と同僚からは好評で、でも特別深い追求もされることはなかったし正解だったと思う。
………このシミさえなければ。


自分が思うほど、他人は周囲の人間のことなんて気にしてはいないのだろうけど、性格上そう簡単に割り切ることもできなくて。

仕方無しに持っていたバッグで隠しながら、あと一時間で終了してしまう展示会会場へと、漸く私は足を踏み入れた。





Theme/忘れたくても忘れられない

Writer/A kari✿

10/16/2024, 8:23:46 PM

翌日が楽しみすぎて、目覚ましが鳴る前に目が覚めるなんていつぶりだろう。

一度のアラームじゃ気付きもしない私が、
今朝は1時間も前に覚醒していたのだから驚きだ。



昨夜目にした一枚の広告。


それを思い浮かべるたびに、胸がトクンと鳴って
緩みそうになる頬を慌てて隠す。


絵画の展示会なんて、勿論行ったこともないし
それこそ絵を見て心を動かされる日がくるなんて
昨日までの私にはとても考えられないことだった。

叶うことならオープンと同時に駆け込みたかったけれど、今日に限って外せない打合せが入っているため急な休みを取るわけにもいかない。


けれど、楽しみが待っていると思えば
きっとあっという間に仕事は片付くだろう。




すっかり秋めいてきた早朝の空気と
天空から注がれる柔い陽の光に瞳を細めながら


今日は絶対に定時で上がるぞ、と


心に誓いを立て
軽やかな足取りで電車に乗り込んだ。




Theme/やわらかな光


Writer/Akari✿

10/15/2024, 4:20:08 PM

胸の奥のもやもやを払いたくて
心が晴れるような調べを流しながら読書をしてみたり
大好きなワンコに寄り添うように寝転がってみたり
普段は観ないような恋愛映画を観てきゅんとしてみたかったのに
ときめくどころか泣けるシーンでもないのに涙が溢れてくるなんて

相当疲れていたんだと思う。心が。

何が原因って訳ではないけど、そういえば最近は何をしていても心から楽しいって思えていなかったなぁってその時になって初めて気付いた。

今夜は早めに寝よう

そう思いつつも無意識にスマホを弄ってしまう自分に思わず溜息が洩れそうになったその時

視界を捉えたのは一枚の広告だった。

金青の空に散りばめられた無数の煌めきが
まるで宝石のように輝いていて


──あぁ なんて美しいんだろう


思う前に唇から漏れ出た言葉。

それと同時に明日の予定をスケジュールに打ち込むと、瞬きすることすら惜しいとさえ思うほどに
その画から長い間視線を外すことができなかった。

先刻まで胸の内に侵食していた暗い靄はいつの間にか霧散し、運命なのか偶然なのか明日が最終日という展示会へ出向く楽しみができ、心が逸る。

高まる鼓動を抑えつつ部屋の灯りを消す。

瞼を閉じたその裏で尚、目を逸らすなと言わんばかりの眩さと神々しくもあり吸い込まれそうな妖しさを含んだ夜空は、いつまでも私を眠りにつかせてはくれなかった。


Theme/鋭い眼差し  


Writer/Akari✿