入り口前に貼られたポスターを見上げながら思う。
できることなら着替えてから来たかった──
(ここで倒れたら今朝目覚めた瞬間へタイムリープ…なんてことにはならない、よね)
視線を落とすと嫌でも目に入る茶色いシミに
はぁ…、と今日何度目かの溜息が漏れた。
朝から顧客からのクレーム対応に追われ、ようやく一息つけたのは午後15時。
すっかり冷めてしまった珈琲を淹れ直そうと伸ばした指が、紙コップを弾いてしまったがために
デスクへと盛大にぶちまけてしまった挙句、パンツにまで飛び火してしまい気分は最悪だった。
余所見をしていたのは認める。自分が悪い。
けれどシミを見るたびに恥ずかしい記憶は蘇るし、凹むのループから抜け出せない。
一旦家に戻って出直そうかとも考えたが、時間的にそれも厳しそうで断念するしかなかった。
せっかく楽しみにしていた展示会なのに、汚れた服で訪れる羽目になるなんて…なんかもう泣きたくなってくる。
初めての展示会へ着ていくには、どんな服がいいだろう。
次から次へと服を引っ張り出しては一人ファッションショーを繰り広げた。
先日購入したばかりの大きなフラワープリントをあしらったモノトーンのワンピースにしようかな、と鏡の前で合わせながら微笑む自分の姿に、ふと我に返った私は手を止める。
(あまり気合の入った感じだと同僚達から質問攻めに合いそうだし面倒かも……)
そう思い、あれこれ考えてやっと決まったのは、
白いラッフルスリーブのシフォンブラウスにベージュのパンツ という結局シンプルなもの。
けれど割と同僚からは好評で、でも特別深い追求もされることはなかったし正解だったと思う。
………このシミさえなければ。
自分が思うほど、他人は周囲の人間のことなんて気にしてはいないのだろうけど、性格上そう簡単に割り切ることもできなくて。
仕方無しに持っていたバッグで隠しながら、あと一時間で終了してしまう展示会会場へと、漸く私は足を踏み入れた。
Theme/忘れたくても忘れられない
Writer/A kari✿
10/17/2024, 5:08:39 PM