一輪の花
まだ真新しいあなたの墓。数週間前まで話していた。
共通の友達と話す時も話題に出ていたのに、すっかり話題に出なくなってしまった。知らせが入っ
た直後は二六時十泣いていた。
こうして墓を前にしてもあなたともう二度と話せないということが腑に落ちない。
今でもあなたが息を吹き返して、天真爛漫な笑顔を見せてくれるんじゃないかと思ってしまう。そ
んなことあるわけないのに。たくさんのお供物と色とりどりの花が、私に追い打ちをかける。胸が
つかえて、辛うじて抑えていた涙が溢れそうになる。誰が来るかわからないし、はやく離れない
と。
いつだったか、あなたがくれた一輪の花。暑い夏に一際輝く白い花。花の名前も教えず行ってし
まったけど。調べたらすぐにわかった。サギソウ。鷺に似た、凛とした花。花言葉を調べて満更で
もない思いだったのはここだけの秘密。
一輪だけだと寂しいかなと思ったけど、もう花瓶に刺せないからちょうどよかったかも。あの時伝
えられなかった思いをスカビオサに込めて。
さようなら、大好きだった人。
そっと伝えたい
そっと伝えてほしい。
化粧がケバい時。
早めに言ってくれればまだ直せるから。
なんならメイクし直してほしい。
そっと伝えてほしい。
スカートが捲れてる時。
単純に恥ずかしい。
言われた後、あー私スカート捲れながらここ歩いてたんだって思って羞恥心がじわじわくるから。
だから、気づいた瞬間そっと言ってほしい、全部。
蘭ちゃん、今日も可愛かったよ。
あ、ありがとう……。
これは言うタイミング合ってた?
もちろん!…いや、それも気づいた瞬間に言って!
ココロ
私はココロを癒すAIとして作られた。
なのにココロについてはよく知らない。
知らないのにココロを癒すって……AIも意外とバカなんだね
……なんて主人に言われてしまった。これが嫌味と言うのは知っている。ならばココロを知らなければ。
まずは主人の友達から。
頭を撫でられると、ココロはどう動きますか?
えーっと……嬉しいとか?
ちょっと気恥ずかしいなぁって感じることもあるよねぇ〜
プラスの気持ちじゃなくて、マイナスな気持ちもあるでしょ、気持ち悪いとか、嫌だとか。
全く真逆ですね…
一つの行動だけで、ココロはこんなに動くのか。
ココロを理解するのは難しいです……
だろ?簡単にココロを癒せると思わないことだな。
ドヤ顔の主人、この時ココロは……
イライラしますね。
おっ、わかってるじゃんAIちゃん、人のドヤ顔ってなーんかムカつく。
でも、たまーに可愛いなって思うこともあるよねぇ〜、昨日の類きゅん可愛かったなぁ〜
まひるのそれは推しだからじゃなくて?
ここでもココロの動きが違う……
ココロを癒すAIになる道のりは長そうです……。
星に願って
また独りぼっちの夜が来る。
冷たい石に囲まれた、小さな部屋で、寒さに身を縮こませながら、夜明けを待つ。
誰か、助けてほしい。
誰か、ここから連れ出してほしい。
腕を出すことしかできない、小さな窓から見える星に、何年も何年も願っている。
私の王子様が来てくれることを。
静かな夜明け
夜明けが近づくほど、窓の外が光り始める。
夜更かしした時に見るあの風景が好きだ。
瞬きするたび、世界に色がついていく。
朝の慌ただしさも、昼の騒がしさもない、ただ静かに夜が明けていく。
まるで世界には自分しかいないみたいに。
朝にならないで、ずっとこのままがいいな。