LaLaLa GoodBye
日曜日の夜。月曜日の憂鬱を吹き飛ばすために、恋人の家に遊びに来た。でも泊まるつもりは無い。なぜなら明日は月曜日だからだ。この家からだと、俺の会社に行くには2時間半ほどかかる。つまりほぼ始発電車に乗らなければいけない。そんなの無理に決まってる。
「だから!!俺だって泊まれるなら泊まりたいけど無理なの!!」
「いやだぁ!帰んないでよぉ〜お願いだからぁ!」
困ったことに、愛しい恋人は酔いつぶれている。
くっそかわいいことこの上ないが、帰らなければならない。だって明日は仕事だから!!
「私と仕事どっちが大事なの?!?!」
「どっちもに決まってるだろうが!」
「むっ……そーゆーところすきぃ……」
そう、どっちも大事なのだ。だから恋人の手を振り払って帰ることなんか俺にはできない……。
……あれ、彼女の会社って俺の近くじゃね?
「……よし、わかった。俺の家に泊まろう。そしたら朝まで一緒にいれるぞ、つぼ……み…………」
…………寝てる。寝息を立てて。俺の裾を掴みつつ、ソファの上に寝っ転がっている。
……さすがに寝てる人を勝手に家に連れていくのはダメだよな、起こすのも申し訳ないし。
――こうして俺は自分の家に帰ることを諦めた。
仕方ないので始発電車と乗り換えを調べよう。
えーっと、明日の日付は10月13日月曜日……あれ?
”月”の字が赤いな…………、もしかして。
明日祝日じゃねえか!!
――――――なんにも気にせずに寝よ。
どこまでも
この人と、いつまでも一緒にいたいと思えた。
この人となら、どこまでも行けると思えた。
そう思ったら、もう止まれなくて。
勢いのまま告白して、紆余曲折を経て付き合えた。
辛い思いも沢山したけど、それ以上に楽しかった。
このしあわせをずっと守りたいって思ったんだ。だから――
「結婚は出来ないけど、
誰よりもあなたを幸せにする。
だから、ずっと一緒にいてほしい。」
なんて言ったら、
「もちろん」
って私の大好きな笑顔で笑ってくれたんだ。
隣の芝生が見えないくらい、君を幸せにする。
これからもよろしくね。
未知の交差点
家を飛び出して歩き続けていたら、見たことない場所に来ていた。
生まれ育ったこの場所に知らない土地なんてないと思ってたのに。
知らない道、知らない建物、知らない交差点――――
ここから帰れるのかな……。
秋恋
文化祭1日目当日。高校へ向かう電車に乗りながら、想い人に送ったLINEを見返した。
「明日の文化祭一緒にまわらない?」
「いいよ」
短く返された承諾の返事に狂喜乱舞した昨日の夜がまざまざと思い出される。
友達に促されるがまま送って後悔したけれど、消さなくて本当によかった――――
「おはよ。」
「おはよー」
「どこ回る?」
「決めてない」
「じゃあお腹すいたから、あいつのクラス行こうよ、シャカシャカポテト」
「いいね」
校則で禁止されているメイクを解放して、バッチリ決めてる彼女は滅茶苦茶かわいい。
”あいつ”という、自分以外の異性の登場に少しの嫉妬を覚えつつ、恋心がバレないように平常心を保って接する。
――告白しなよ。
という友達の声が聞こえた気がしたが、そんなの無視だ。俺に勝算が無いのはとっくの昔に知っている。
忘れもしない。今年の新学期。空は晴れわたり、桜は咲き乱れ、太陽は暖かく光っていた。高校二年生という、最後の青春を謳歌する時期。好きな人とまた同じクラスになれたことも相まって俺は有頂天だった。
そんな気分が崩れ去ったのは俺がクラスに入った時だ――
「そういえば、あのイケメンと文化祭回んなくてよかったの?」
「あのイケメン?」
「何かと親しげに話してるアイツだよ」
そう、新クラスで仲良さげに話していた、うちの学年でも割と上位にはいるあのイケメン!!
「あーただの幼馴染だよ」
「付き合ってんの?」
「は?」
俺たちの朝ごはんであるシャカシャカポテトは奥の方にあるらしい。だんだん人気が無くなってきた。
教室の希望が3年生と被りに被ったのだろうか、いいものを作っても場所が悪ければ客足は伸びない。
ちょっとだけ同情する。1番高いシャカシャカポテトを買ってやろう。
「ある訳ないでしょ、あれは顔面偏差値が良いだけの、ただの馬鹿だから。私他に好きな人いるし。」
「へぇー。…………え、好きな人いんの?!」
「うん。いたらおかしい?」
「いや?で、誰?」
「…………今隣にいる人。」
いつもクールで表情を崩さない彼女の顔が、真っ赤だ。今日はそんなに暑くないのに。西日も刺してない。秋の空は春に見た空よりもはっきりしていた。
「…………俺から言いたかった。」
「言うのが遅い、ヘタレ。」
「だって……いや、ごめん……。
……好きです。去年から、こんなヘタレでも良ければ付き合ってくれますか。」
「もちろん。」
愛する、それ故に
愛してるから、大事にしたいと思う。
愛してるから、ずっと一緒にいたいと思う。
愛してるから、幸せになって欲しいと思う。
それ故に、傷つけてしまう、不安になってしまう。
友愛でも、親愛でも、恋情でも――人を愛するのって難しい。
傷つけたくないから、嫌われたくないから、ずっと一緒にいたいから――相手を思えば思うほど、自分の言葉が不器用にしか出せなくなる。
「私の思ってること全部伝わればいいのにな」
と思うけれど、実際そうなるのは嫌で。
こんな自分が嫌になる。
みんなは上手くやれてるように見えるからなおさら。
自己肯定感がどんどん下がっていく。人間関係で迷った時に使える”模範解答”をみつけようと思ったけど、そんなものないんだろうな。
――とどのつまり、人と接するのって難しい。