「はぁ、はぁ...くっそ...」
俺は、滅びゆくこの世とずっと一緒に生きてきた。誰よりもこの世を大事に思っている。
それなのに、あいつのせいで...あいつのせいで、ずっと守ってきたこの世を失うなんて、ありえない。じゃなくて、あってはならない!
心の中の葛藤が、ピークを迎えようとしていた。
俺はこの、何だかよく分からないが人類に悪影響を及ぼすことだけは分かっている気持ち悪い異界生物とやらとずっと戦ってきた。敵はお互いで、民間人の犠牲なんていちいち数えていられないような悲惨な状況になっても、ずっと諦めずに戦ってきた。「救世主」と呼ばれる俺が諦めるわけにはいかなかったし、何よりも君を、この手で守りたかったから。
なのに、君は助からなかった。一命は取り留めたけど、植物状態。話しかける僕に、君は答えたことなんかなかった。
いつの間にか、僕の守る対象は、「君」から「君のいるこの世」になっていた。なぜだかは分からない。でも君を守りたかった、理由はそれだけだ。他に理由なんているだろうか。君ならそんな些細なことは気にしないさ。そう信じている。
情けない話だ。この世を守っている、いや守ろうとしているのは、みんなのためなんかじゃない。君のため、いや、君と一緒に笑い合う、そんな幸せな未来の俺のためだ。結局、俺は自分のことしか考えてない。この世は今でも守り続けている。確実に。それでも俺は何かが足りない気がしている。
何だろう。異界生物が目前に迫るなか、もう少しで掴めそうな永遠の答えを、俺は君に、いや、君の仮面を被った、俺の中の何かに問いかけていた。
「あー!!」
君には聞かれたくもない、人間じゃないような声を上げて、異界生物を返り討ちにする。もう少し、もう少しで答えが出そうなのに。俺の弱い頭は考えが至らない。何が俺を、こんなところに立ち止まらせている?何が?教えてくれ!!
ふと、君とのワンシーンが頭をよぎる。こんなこと思い出してもどうにもならないと思いながら、うざったい異界生物を倒しながら、それでも君との思い出を噛み締める。ああ、懐かしい。幸せな時だった。
「そんな、虫も殺せないの?自分の血吸ってくる蚊だよ?」青臭かった頃の俺の声。
「だって...蚊も一生懸命生きてるんだよ。子供に栄養あげるために。」今でも大好きな、君の声がする。俺の頭に、心にこだまする、心地よい声。
「思い切りなよ、もっと。そんなことじゃ強盗に家のもん全部持ってかれるよ。」
「まぁ、確かに...うん...」
どんどん小さくなる君の声。回想、ここで終わり。そう言っているかのようだ。
思い切りか。俺は思い切り、できているだろうか。今でも異界生物を倒し続けている。だけど...?
何かが、足りない気がする。
あなただったら、「俺」に、どうアドバイスするだろうか。どう、価値観の、人生のヒントを、与えるだろうか。
筆者も考え続けている。
#世界の終わりに君と
...だいぶ内容が変わってしまった...まぁいいか。
最悪は時に、変貌を遂げる。そうだとしたら、人生もっと楽?けど、実際そうじゃない?
これは、勉強しか取り柄がない。そんな彼女に、転機が訪れ、自分を変えていく話である。
「最悪だわ...」
壁に向かって話しかける。いや、正確に言えば独り言?けど、壁も聞いてくれてる気がするなぁ...もう慣れたんだろうな、壁も。
私は勉強しか取り柄のない中学生女子。だったのに。
彼女が壁に話しかける5時間前。
<後期中間試験 成績順位>
1位 時元 杏奈
2位 星原 瑞希
その時、私の中の何とか保っていた自信が崩れた。
「え...」
見た瞬間、弱々しい声だけが喉からこぼれた。
なんで。なんで、あんなやつに。
1位は、私のものだったのに。
こんなことしか考えられない自分に腹が立つ。けど、これしか私の取り柄はなかったのに。なんで!しかも、よりによってあいつに!一生許さないと決めたあいつに!何で!?
再び壁の前。
はぁ。何でだろう。今回は対策した。ちゃんと。前期の中間と期末は運動ができるようになりたくて、あまり勉強して挑まなかった。だから今回は、死ぬ気でやった。やった。私は十分すぎるほどやったのに!
時元は、私の幼馴染だ。明るくてサバサバした性格、というと良い響きだが、服装だけは普通のヤンキーと変わらない。一人称も、私服も。先生への態度だって、「うす。」とか、「あ、はぃ。そうっす。」とか、もうちょっとどうにかしたら?と毎回心の中で言いたくなる感じだ。ようやく小学校を卒業して離れられる、と思ったのに、受験した私立中さえ一緒。向こうも私のことが嫌いらしく、僅かな私と話さなければならない授業時すらも無視。非常に不快なのでこちらからも話しかけない。
それでも、一定の距離を置いて、頑張ってバランスは崩さないよう努めてきた。お互いそれで良いと思っていたはずだ。なのに。
あの時、均衡が崩れた。
いや、あっちはただ勉強しただけ。こっちが自意識過剰&あいつのことを嫌いすぎるだけ。
そうやって実は本当である自己暗示をかけるも、幸せにはなれない。はぁ。
誰か、と思って外に出る。たまたま知り合いに会って慰めてもらう...とかいうありえない想像をしながら、ふらふらと歩く。商店街の一歩手前、アーケードに入る直前で、怪しい新興宗教の勧誘に捕まる。
「神というのは、我らを救うためにいらっしゃるのです。いつか、神が生きる価値のない人間を抹消するため、大災害を引き起こされます。そこで生き残りたいのならば、神を崇めなさい。今、巷では推しというものがいるそうですが、そんなもの、神の御前では何の役にも立ちませんよ。」
ボーッとグダグダ続く話を聞きながら、私の心にある考えが渦巻き始めた。
神を崇める?神は推しの上?
あいにく私に推しはいないが、大体概念は分かる。
神を推しにすると解釈するのであれば、お断りだ。そんなことするくらいなら私を自分で推す方がよっぽど良い。
ん?自分を推す?それって良くない?結構良くない?
だって、自分で自分をアップグレードできるわけだし、自分好みに作り変えるなんてお手のものじゃん?
...やってみるか?
得意なことで鼻を明かされ(自意識過剰)、他にこれといって魅力もない、しがない私を。推してみるか?
やってみるか!
その時、彼女の心の殻が割れた。
新興宗教のおじさんが今にも私の手に載せそうな経典を押しのけ、走り出す。私の家、推しの家に!
あぁ、空が晴れてる。天気なんて、空なんて、いつぶりに気にしただろう。気持ちいいな。今日は蒸し暑くもなくて、晴れてて、あんなに嫌いな蚊も飛んでない。気持ちいい!!
私の心も晴れたみたい。そうだ、私はただのガリ勉じゃなくて、あれもこれも好きな可愛い子だった。そんな昔を思い出し、アップグレード予定表を考え始める。楽しい!
これは、勉強しか取り柄がない。そんな彼女に、転機が訪れ、自分を変えていく話である。
#最悪
最近勉強が...最悪です...