グラン・シャリオ

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最悪は時に、変貌を遂げる。そうだとしたら、人生もっと楽?けど、実際そうじゃない?

これは、勉強しか取り柄がない。そんな彼女に、転機が訪れ、自分を変えていく話である。


「最悪だわ...」
壁に向かって話しかける。いや、正確に言えば独り言?けど、壁も聞いてくれてる気がするなぁ...もう慣れたんだろうな、壁も。
私は勉強しか取り柄のない中学生女子。だったのに。

彼女が壁に話しかける5時間前。
<後期中間試験 成績順位>
1位 時元 杏奈
2位 星原 瑞希

 その時、私の中の何とか保っていた自信が崩れた。

「え...」
見た瞬間、弱々しい声だけが喉からこぼれた。
なんで。なんで、あんなやつに。
1位は、私のものだったのに。
こんなことしか考えられない自分に腹が立つ。けど、これしか私の取り柄はなかったのに。なんで!しかも、よりによってあいつに!一生許さないと決めたあいつに!何で!?

再び壁の前。
はぁ。何でだろう。今回は対策した。ちゃんと。前期の中間と期末は運動ができるようになりたくて、あまり勉強して挑まなかった。だから今回は、死ぬ気でやった。やった。私は十分すぎるほどやったのに!

時元は、私の幼馴染だ。明るくてサバサバした性格、というと良い響きだが、服装だけは普通のヤンキーと変わらない。一人称も、私服も。先生への態度だって、「うす。」とか、「あ、はぃ。そうっす。」とか、もうちょっとどうにかしたら?と毎回心の中で言いたくなる感じだ。ようやく小学校を卒業して離れられる、と思ったのに、受験した私立中さえ一緒。向こうも私のことが嫌いらしく、僅かな私と話さなければならない授業時すらも無視。非常に不快なのでこちらからも話しかけない。
それでも、一定の距離を置いて、頑張ってバランスは崩さないよう努めてきた。お互いそれで良いと思っていたはずだ。なのに。

      あの時、均衡が崩れた。

いや、あっちはただ勉強しただけ。こっちが自意識過剰&あいつのことを嫌いすぎるだけ。
そうやって実は本当である自己暗示をかけるも、幸せにはなれない。はぁ。

誰か、と思って外に出る。たまたま知り合いに会って慰めてもらう...とかいうありえない想像をしながら、ふらふらと歩く。商店街の一歩手前、アーケードに入る直前で、怪しい新興宗教の勧誘に捕まる。
「神というのは、我らを救うためにいらっしゃるのです。いつか、神が生きる価値のない人間を抹消するため、大災害を引き起こされます。そこで生き残りたいのならば、神を崇めなさい。今、巷では推しというものがいるそうですが、そんなもの、神の御前では何の役にも立ちませんよ。」
ボーッとグダグダ続く話を聞きながら、私の心にある考えが渦巻き始めた。
神を崇める?神は推しの上?
あいにく私に推しはいないが、大体概念は分かる。
神を推しにすると解釈するのであれば、お断りだ。そんなことするくらいなら私を自分で推す方がよっぽど良い。
ん?自分を推す?それって良くない?結構良くない?
だって、自分で自分をアップグレードできるわけだし、自分好みに作り変えるなんてお手のものじゃん?
...やってみるか?
得意なことで鼻を明かされ(自意識過剰)、他にこれといって魅力もない、しがない私を。推してみるか?
やってみるか!

    その時、彼女の心の殻が割れた。

新興宗教のおじさんが今にも私の手に載せそうな経典を押しのけ、走り出す。私の家、推しの家に!
あぁ、空が晴れてる。天気なんて、空なんて、いつぶりに気にしただろう。気持ちいいな。今日は蒸し暑くもなくて、晴れてて、あんなに嫌いな蚊も飛んでない。気持ちいい!!
私の心も晴れたみたい。そうだ、私はただのガリ勉じゃなくて、あれもこれも好きな可愛い子だった。そんな昔を思い出し、アップグレード予定表を考え始める。楽しい!


これは、勉強しか取り柄がない。そんな彼女に、転機が訪れ、自分を変えていく話である。

#最悪

最近勉強が...最悪です...

6/7/2024, 5:59:35 AM