目が覚めると、
見覚えのないブランケットが、私を包んでいる。
私の隣のスペースは既に冷えきっていたから
あなたが今世に留まっていた理由が
とうに無くなっていたことを知った
あなたにとって当たり前の優しさが
私を特別な人みたいな気分にさせてくれるの
鳥居の周りは、明るく人で賑わっている。
丘の上の狐は耳を立て、首をピンと伸ばしその光景を眺めていた。
それは毎年夏が訪れると、催されるものである。
ゆらゆら揺れる提灯に、小気味いい囃子の音。色とりどりの屋台と、景気の良い話し声。
人間たちは、各々、自分とは違う誰かの面を頭に引っ掛け、やや動きにくそうで涼やかな衣服を身に纏っている。
何かの匂いが鼻をくすぐる。肉の焦げたような、胃袋を刺激するような匂いは、普段の狐が口にすることのない匂いだ。
きっと、あれだ。母親に手を引かれた小さい子供が、焦げ目のついたとうもろこしにかぶりついていた。
もう少しだけ、近づいてみようか。そう考えるも足の動かない日々が続いている。
いつか行ってみたいと思う。それにはもう少し上手く、この尻尾を上手く隠さなきゃならないんだけど。
「何をお願いしたの?」ときみは無邪気に僕へ問う。
僕を信頼するきみの瞳があまりにもきらきらしていたから、
私は咄嗟に嘘をついた。
さっちゃんは特別な男の子が好き
頭が良い坂口くん。サッカーのうまい大倉くんに、楽器が得意な神崎くん。何かの大会で賞を取ったなは、伊藤くんだったかな。どの子も何かに秀でていて、普通の子とは違う特別な男の子。
さっちゃんは普通の子。普通に可愛くて、普通の身長で、普通に優しい子。強いて言うなら、さらさらのロングヘアーは素敵。それを括ったポニーテールが揺れる姿を見ると、私の胸はいつもざわついてしまう。
さっちゃんは奥ゆかしい。いつも気になる男の子たちのことを、彼女は目で追っているだけ。話しかけもしない。関わりもしない。「それで良いの?」って聞いたことはあるけど彼女は笑うだけ。「いいの、それだけで良いことがあるから」、そして彼女は笑うだけ。不満そうな表情一つ見せない。
「さっちゃん」
「なに、みなみちゃん」
「坂口くんと付き合うことになったの」
すると、さっちゃんは大きく目を見開いて、ふんわりと笑む。涼しげな目元を柔らかく細め、私を見つめてくれる。
「おめでとう、みなみちゃん」
心底喜んでいると言いたげな彼女は、いつだって私の幸せを祝福する。本当に?嬉しいと思ってる?私はさっちゃんの好きな人と付き合ったのに。
ふぅん。
坂口くんへの気持ちが一気に萎んでいく。しばらく彼氏と一緒に帰ると伝えると、「わかった」と返す聞き分けの良い友達を、私は嫌いで仕方がない。