美しいものを君に
窓ぎわのサボテンの
頭にピンクの花冠をのせて
甘やかに色づく東のそらを
星々が列になって旅をしているよ
薄闇に小さな羽音が灯り
ほどけた水のにおいが喉を潤して
目覚めた春をゆきかう人々の
さよならとはじめましてのあいだに
福音のつぼみがたくさんゆれているよ
どうか
幸せになって
この美しい季節のすべてが
君のものだから
『幸せに』
君が何気ないふりで抱えて歩く
心にぽっかりあいた穴に
風がとおって鳴る音を
僕はときどき
聞いてしまうことがあるんだ
それはやわらかな土笛の音色
夜を纏う梟のうた
銀河をさまよう汽笛
生まれたばかりの雛鳥の喉のふるえが
小さな蝶のはばたきが
身体の内に巣食う暗闇の
がらんどうをふるわせて
僕の心もふるえている
あちらこちらで風がおこり
孤独な心の共鳴が
音楽のように世界をみたしている
何気ないふりで抱えて歩くものを
知らせている
『何気ないふり』
もしかしたらずっと
蛇足の世界を生きているのかもしれない
より添う仲直りの恋人たち
まどろみながら布団へはこばれる子供たち
飼い主の足もとでまるまる動物たち
どこかで美しい物語がとじて
安らかな息が大気をみたす
退屈な夜
温かな部屋
コップの中のミルク
窓辺のきらきら星
日々おとずれては去っていく
ちいさなパッピーエンドを
紙に書きつけたり
口ずさんだりして
幸せな物語にはいつまでも
ひたりたくなってしまうね
私はきっと
ずっとどこかの誰かの
エピローグの世界を生きていて
だからここはあたたかい
『ハッピーエンド』
わたしの心をあげる
病にでもかかったというのか
最近 鉛のように重たくて
だから
少しずつ 少しずつ
毒を盛るように
あけわたしてあげる
あなたの
盛った毒が
わたしを蝕んだように
『My Heart』
/
神さま 神さま
わたしだけの
神さまがほしい
『ないものねだり』
好きじゃないのに
目が離せない
好きじゃないのに
夜ねむる前の天井にあらわれた黒点
明かりをつける勇気がない
さりとて目蓋を閉じる勇気も持てず
どうか動くな こちらへよるな
ただの染みであってくれ
ただじっと息をひそめて 見つめる
目が離せない
好きじゃないのに
目が離せない
『好きじゃないのに』