【君と一緒に】
彼らは幼なじみの仲だった。いつも二人でいた。
男の子二人なのに、いつも大人しい遊びをしていた。
ずっと二人でいるのかと周りは思ってた。
ある日、一人がもう一人に告白をした。
ずっと恋愛対象として見ていたらしい。
「ごめん。君と一緒にはいられない」
そういって断ったそうだ。真摯に。
そして断った彼はある女の子に告白をした。
女の子は迷った。彼ら二人を見ていることが、彼女の安らぎだった。
儚い彼らの間に入ってはいけないと思った。
しかし何度も告白された女の子はとうとうその気持ちに答えることにした。
失恋をした男の子は絶望の末、泉の中に飛び込んだ。
しかし命を絶つことはできなかった。
私は、私は兄様を裏切ったの?
兄様は何も教えてくれなかったのに。
そんな目でこっちを見ないでよ。兄様。
ああ、どうしてこんなことに。
【日の出】
「馬鹿みたいな人生だった」
虚空に消える、すっかり口癖になった言葉。
健康な生命体たる自分の身体は自死を望まない。
でもきっと終わるだろうと希望的観測で生きてきた。
ずっと真っ暗な道を、遠くに見える死という光を追いかけて歩いてきた。全部終わる前提で創った道だった。
今、私は恵まれた環境に生きていて、それに気付いている。眩しすぎた光の中にいるのか目が見えないほどに。
笑うことも、泣くことも、怒ることも、恨むことも、慕うことも、慈しむこともできるのに、
私の心は晴れることなくずっとずっと虚しい。
そして、皆はそれを「貴方はまだ大丈夫」と言った。
私を幸せにしたい人達が大勢いてくれる。
「不幸な自分より幸せということにしたい」人達が。
分かってる。誰よりも私が一番。過去は見なくていい。
私の想いも、彼らの考えも全部一方通行だし。
ずっと、ずっとこのまま生きていくのだろう。
心の奥がずっと空っぽで、真っ暗な景色を見て。
そこに日の出を見ることも叶わないまま。
【変わらないものはない】
諸行無常。何度も自分に言い聞かせてきた。
変わっていく自分の世界が名残惜しかった。
出会いと別れが表裏一体なんて知りたくなかった。
私は何度も願った。彼らと共にいられるように、と。
魔法の代わりに奇跡が存在する世界、でも私はずっと前から知ってたよ。
奇跡なんてないことを。世界がそれを捨てたことを。
ねえ、君は変わらないものはないって言ったよね。
でも、あるの。ひとつだけ。…私なんだけど。
みんなも、世界も、全部全部変わっていってしまう。
私もこんなに変わったのに、変わるしかなかったのに
私が愛されないこと、願いなんて叶わないことだけは
どう頑張っても変わらない。
世界が愛した私たちが仇を成し、愛さなかったように。
【風邪】
なんだか、最近酷く調子が悪い。
寒くて、重くて、とてもだるい。なにもできない。
暖炉の傍で座り込む。熱で冷たさが和らいで、悴んだ手足が痺れたような感覚がする。
まるで緊張に似た痺れだった。
なんてことない、人生の最低にいるような。
生暖かい涙が頬を伝う。もう凍ってはくれず、ただ染みを作っていくだけだった。
ああ、風邪だ。風邪を引いてるんだ。
心がとても、とても寒くて、重くて、だるい。
もうなにもできる気がしない。
一人の寂しさに、叶わないこの虚しさに背を預けたって、倒れていくだけなのに。
今は床のひんやりした感覚でさえほしかった。
立ち上がれない私を支えていてほしかった。
ただの風邪が大したこと無い不調を招いてるんだと、信じるしかなかった。
【雪を待つ】
昔々、雪の精霊と火の精霊が恋に落ちたそうだ。
彼らはもちろん、結ばれることなんてできなかった。
火は涙を流し、雪は溶け水になった。
彼らは幸せだったのか?それとも悲恋だったのか?
私には彼らが最期の時、どんなことを思っていたのか、或いは何を話していたのか皆目検討もつかない。
彼らは精霊だ。人間とは違う。
人間のような複雑な心なんて、「涙の理由」なんて、理解できなかったことだろう。
私も最近失恋をした。もう遠くへ行って会えない人に。
報われない恋心に共感はした。
でも、かの精霊たちはまだ幸せだろうと思ってしまった。水になって永遠に一つになれただろうから。
「生まれ変われるのかしら、精霊って」
別の精霊になるのかな。一つの水の精霊にでも?
ああ、全く下らないことを考えるわね。私ったら。
絵本を閉じて窓を見る。
二人の精霊に想いを馳せて窓を見る。彼らが世界を巡って、またここに舞い戻ってくることを祈りながら。
そして、私の悲しさを真っ白に塗りつぶしてくれるような、火のように温かい、寂しさより冷たい雪を待つ。