『春恋』
春の木漏れ日の中で、
「彼女ができたんだ」と君が嬉しそうに言った。
目の前が真っ白になった。
友達だから、報告してくれたんだよね。
おめでとう。よかったね。
って、なんとか絞り出して言ったけど。
わたし、君のこと好きだったんだ。
初恋、気付くのが遅すぎちゃったな。
『未来図』
付き合い始めて2回目のデート。
居酒屋で二人、お酒を飲んでいると、突然目の前に
あるイメージが広がった。
どこか見知らぬ家のキッチンで、朝、彼と二人でコーヒーを飲んでいる。
そんな映像。
ああ、この人と結婚するんだなぁ。と、不思議と確信に近いものを感じた。
彼が夫になって何年も経つけれど、これからも彼と一緒に歳を重ねたいと思う。
これが今の私の未来図。
『ひとひら』
久しぶり
今日は良いお天気だね
しばらく来られてなくてごめんね
こちらはみんな元気だよ
…って、空から見てくれていたら知ってるかな
昨日、懐かしい写真が出てきたの。
みんなでバーベキューしたときの写真。
盛り上がってすごく楽しかったよね。
あれからもう何年も経つなんて信じられないよ。
…私は大丈夫だから、心配しないでね。
でもこれからも見守っていて。
…また来るよ。
目を開けて空を見上げる。
青い空にひとひらの煙が上っていった。
『風景』
受験に失敗したとき。
ひどい恋が終わったとき。
親が突然亡くなったとき。
風景はなにも変わらなかった。
いつものように空は青いし、いつものように街も動いていた。
足早に通りすぎる人も、楽しそうに数人で話ながら過ぎ行く人も、なにもかもがいつもどおりだった。
自分がどんなにつらいときでも、どんなに悲しいときでも、世の中にはなにも影響が無い。
自分だけが、離れた場所から風景を眺めているような不思議な感覚。
あれからまた時が過ぎ、気付いたらいつのまにか戻っていた日常。風景に溶け込んでいた自分。
そして今、ふとしたときに思う。
足早に通りすぎる人の中にも、あの時の自分と同じ感覚を持って風景を眺めている人がいるかもしれない。
勝手な思い込みということは重々承知だけれど、それでも願わずにはいられない。
今つらい人が、どうか早く、またいつもの風景の中に戻れますように。
『君と僕』
君を守るために僕は生まれた
君が泣いたら僕の出番だ
だから安心して
つらいことは全部僕が引き受けるから
君を傷つけるやつは許さない
……………………
まただ
時々記憶がない時間がある
あいつが帰ってきて
酒を飲み始めたところまでは覚えてるのに
ここはどこだ
いつの間に外に出たんだろう
頭がぼんやりする
服が汚れてる
手も黒い…いや、赤い?
まさか…
……………………
君は混乱してるね
でも大丈夫
僕が守ってあげるよ
僕のほうがうまくやれる
ずっとそう思ってたんだ
だから君はもう
ずっと隠れていていいよ
僕が君になってあげるから