『風景』
受験に失敗したとき。
ひどい恋が終わったとき。
親が突然亡くなったとき。
風景はなにも変わらなかった。
いつものように空は青いし、いつものように街も動いていた。
足早に通りすぎる人も、楽しそうに数人で話ながら過ぎ行く人も、なにもかもがいつもどおりだった。
自分がどんなにつらいときでも、どんなに悲しいときでも、世の中にはなにも影響が無い。
自分だけが、離れた場所から風景を眺めているような不思議な感覚。
あれからまた時が過ぎ、気付いたらいつのまにか戻っていた日常。風景に溶け込んでいた自分。
そして今、ふとしたときに思う。
足早に通りすぎる人の中にも、あの時の自分と同じ感覚を持って風景を眺めている人がいるかもしれない。
勝手な思い込みということは重々承知だけれど、それでも願わずにはいられない。
今つらい人が、どうか早く、またいつもの風景の中に戻れますように。
4/12/2025, 12:51:26 PM