誰にも言えない秘密
僕らの関係を知った時、世間はどう思うのだろうか。
祝福?批判?それとも案外反応はない?
世間では王子様とお姫様が恋をして結婚するのが理想の形なんだと思う。
でも僕らは…。
どちらか言うわけでもなく、お互いの感情なんて確認しないで置き去りにして、ただ一夜を同じベッドで過ごしている。
同じ家に住んでるわけではない、のに連絡がくればどちらかの家を訪れ、朝何も無かったように朝食を食べて情報交換をして職場へと向かう。
いつか恋人が出来れば終わるだろうと思ったこの関係は、恋人という終止符が打たれるとこと無くずっと続いている。
相手の感情がわからない以上、これから関係が変わることはない。
僕の感情だって僕自身理解していない。きっと理解した所で何も変わらないだろうから。今はただ君との名前のない、誰にも言えない二人の関係を楽しむだけだ。
失恋
今日僕はきみに失恋をする。
一目見てわかった。きみは人付き合いが苦手だ。
それはきみの生まれ育った環境もあるだろうし、きみの内気な性格なのもあるだろう。
でもきみはとても真っ直ぐに生きている。その生き方はとても好感が持てる。
そうしてきみへの好感が淡い恋に変わっても僕らの関係は変わらなかった。
それはきみに好きな人が出来たから。きみはまだ感じてはいないようだけど、きみは好きな人のために自分を変え始めている。相手のためにきみが動くのは正直驚いている。きみってそんなタイプだったんだな。
そんな前世を思い出しながら物思いにふけっていると、前世を全て思い出したきまが来た。きみの好きな人の情報は先に仕入れてある。人見知りのきみが僕を頼るのは安易に想像がついていたから。何も知らなかったきみの隣でもしかしたら…と夢を見たけど、それももうお終い。
仕入れた情報をきみに渡す。それを見ると足早に去っていった。
僕に見向きもしないんだな…。
テーブルの木目を眺める。徐々に歪む木目にあはっと笑いが溢れた。僕の事なんて見向きもしないんだね。
木目に少し水分を吸わせても問題はないだろう。
梅雨
ザーザーと降る雨の隙間からたまに悲鳴が聞こえてくる。
やめて!やめて!と。
声の方向に目線をやれば、女性が子どもに向かって言っている。
大体雨の日そう、子どもが水たまりを見つけては陽気にジャンプをしてそれを見た母親が悲鳴をあげている。
失礼だけど、あぁもうそんな時期か、とその姿に梅雨を感じてしまっている。
でもなぁ、正直子どもが水たまりの上を跳ねたいのはよくわかる。自分が小さい時だってそうだった。
白線の上は何故か歩きたくなるし、アスファルトの段差の高いところを歩きたくなるし、ガードレールに触りながら歩いた時もあった。そこら辺に落ちてる大きめの石にだって毎回何かしたらのアクションを起こしてた気がする。
止められないよなぁ、と去年の梅雨も同じ事を考えたかもと傘の中ちょっと笑いを浮かべて足早にその場を離れた。
「ごめんね」
今日でこの思いと強制的におさらばだ。
伝える気なんてなかったのに、泣きながら言葉を口にしていた。
明日から僕らはもう会うことはない。だから今日、きみを見送って僕の初恋は消化不良で僕の中でゆっくり溶かして消えて癒えるのを待つつもりだった。
なのに、きみが僕に笑いかけるから、きみが僕ともっとお話したかったなんて言うから。僕だってもっときみのそばにいたかった。
「きみが好きなんだ。迷惑なのもわかってる、でも、ごめんね。下心ありでそばにいてごめん。僕なんかが好きになって、ごめん」
きみの顔なんて見てられない。伝えてしまったしかも泣きながら謝りながら。そして僕は振られる。でもきっとこれはこれで良かったのかもしれない。振られてしまえば僕の中で消化不良にならずにすむ。
「ごめん……」
僕の恋はこの瞬間に終わった。
「めちゃくちゃ嬉しい」
と思った。
「お前がその色々抱えて覚悟を決めて告白してくれたのに、その嬉しくてニヤけて…いや、その、馬鹿にしてるとかじゃなくて…あぁ!もう!泣くなよ、俺もお前の事が好きなんだよ!!!」
「ちがっこれはっ嬉しくっ」
「はぁ〜それにしても俺たち両思いだったんだな…」
「そう、だったんだね」
「ずっとお前のこと見てたのにな、気づかなくてごめんな」
きみの色んな言葉が僕の中で消化不良になりそうなほど降ってきて僕は今胸焼けで笑っている。
半袖
袖の長い衣服が、袖の短い衣服に変わると夏が来たなと実感する。
暑い、死ぬほど暑い、今日も暑いし、昨日も暑かった。きっと明日も暑いだろう。
暑い季節は好きではないが嫌いでもない。
ただ強いて言うなら寒い季節の方が個人的に好きだ。
なんでかって言うと、寒さを理由に好きな人にくっつけるから。暑いと近づくことでさえお互いに暑くて無理。
ただ夏にも良い事がある。半袖になると好きな人の肌が見える。
活発な人だから、春の始まりから夏の終わりに日焼けした笑顔がとても眩しくて、その過程をそばで見れるのが嬉しくて、好きな人を肌から感じる。
近づけはしないけど、そばにはいれる。
互いに暑い暑いと言い合いながら短い季節を謳歌する。
たまに触れるしっかりした腕に胸を打たれてるなんて知らないだろう。
肌と肌が触れる、これは恋人じゃない夏の半袖の時期にしかできない事。