沈む夕日
様々な所で都市開発が進み、僕らの居た場所は僕らの記憶の中だけの存在に変わっていく。きっと数年後には僕らの住んでる知らない街に変わるんだろう。
新しい建物に胸を踊ろせる一方で僕らの記憶の中だけに沈んでしまう建物がある事に悲しさを感じる。
とぼとぼと散歩をしてるとふと花がひらひらと落ちてきた。
桜か…
時がどれだけ経とうと季節は順番通りに巡る。変わりゆく建物たちとは違って季節は変わらない。
顔を上げて気付いた、もう夕方なんだと。この季節の夕焼けは少し長く感じる。桜と夕焼けが混じり綺麗な絵葉書のような空間にぼーと立ち尽くす。
ここはいつまでも変わらないな…
変わらない場所もあるし、夕日はいつも同じ顔。変化に順応出来るか不安だったけど、変わらないものもあるんだと思うと少し楽になった。
沈む夕日を眺めながらふとそんな事を考えた。
君の目を見つめると
寒空の下、今日も僕に挑戦する誰かを待つ。
昔の挑戦者はずっと自分自身だった。より技術を高めるため、より高みを目指すため自分に厳しく毎日を過ごしていた。あの頃の自分は自信しかなくて、常に前向きにひたむきに一日の時間だと思うくらい生き急いでいた。
引退した今、僕には何もなくただ何となく日々を過ごしている。昔と違う挑戦者はくる。でも君たちが見つめてる先はいつも過去の僕だった。
いつかだったか、僕を見つめてる真剣に楽しみながら勝負してくれる子が現れた。試合途中君の目を見つめると、過去の僕を見ているようで懐かしいような、どこか腐ってしまった自分が恥ずかしいようなそんな気がした。
君のような子が挑戦してくるといつも僕は何をしているんだろうなと思う。
そろそろ僕も動かないといけないのかもしれない。あの見つめた目が脳裏から離れないのはきっと、僕が動きたがっているとゆうことだろうから。
それでいい
本当にそれでいいの?
不安そうに聞いてくる貴方に頷きながら返事をする。
それでいいよ。
少し不安な表情を浮かべたかと思うと、口を小さく開けてホッと安堵の表情に変わった。
貴方が選んだから心配だったのだろう。貴方の表情に釣られてこちらも少し気持ちがなごむ。
それでいい、なんて自分も周りに言える程対した事のない人間だなと思う。
それがいい、貴方が自分を思って選んでくれた、それだからいいんだ。なんて言葉が口から出てこないあたり自分もまだまだだ。
見つめらると
未来を見据える挑戦者の君たちの目は、いつも過去の僕を見ている。
就任した時は名前が知れ渡ってるのもあり挑戦者がひっきりなしに訪れた。今はその時よりも落ち着いて前よりは穏やかな日々を過ごしてる。
僕に挑む人たちは未来のある人たちばかりだ。僕の未来は閉じてしまった。けど、それを理由に挑戦者たちに何かをぶつけるようなぞんざいな事はしない。
ただ未来ある君たちに見つめられると、ありもしない未来の事が頭を掠める。もし僕がそうなっていなければ、僕もきっと君たちと同じ目をしていたんだろう。
過去の栄光を手にした者にも今を挑む目の前の景色にも。
ないものねだり
桜や雪景色のように綺麗で
薔薇や金色のように高貴で
海のように心広く
秋のように暖かい
時には梅雨のように冷たく
夏の砂浜のように熱く叱り
そんな人間になりたい、なんて思わない。
ないものねだりでも理想が高いでもない。
私は私が思う私で居たいだけ。