月夜
「月が綺麗だね」
「え?」
「ん?」
「あ、いやなんでもない」
最近読んだ本でそんな告白言葉を見たからつい勘ぐってしまった…。昔の人はおしゃれな言葉で告白するんだなと印象深く残っている。貴方がそれを知っているかなんて自分にはわからないのに、心の底で少し期待してしまった。
それは自分が貴方に気があるからだろう。いつの間にか抱いたこの気持ち、伝える事もせず自分の中でずっと渦巻いている。
貴方の隣に居たい気持ちと、貴方の隣よりももっと先のどんな時も傍に居たいという気持ち。伝えた事で離れてしまうかもしれないという恐怖。色んな感情が心の中でぐちゃぐちゃになっている。
そんな気持ちを抱えながらも貴方の隣は居心地が良く、全て忘れて笑ったり怒ったりしてしまう。やっぱり貴方が好きだ。
そういえば最近読んだ本は誰に貸してもらったものだっけか…記憶を手繰り寄せる。あれ…?ハッと思い出す、その本を貸してくれたのは目の前にいる貴方だ。読んでみてと渡された…確かに、そう。慌てて貴方を見ると、月を眺めていた。その姿があまりにも綺麗で一瞬声を掛けるのを躊躇うほどだったが、今がチャンスなんだと思うと貴方の手を取っていた。
驚いた貴方の表情に可愛さを思わせながらも、何も言葉を用意をしていなかった自分は咄嗟に
「月が綺麗ですね」
今日が月が綺麗な夜でよかった。
たまには
買い出しに行ってたまたま君を見かけた。
声を掛けることなく見ていたけど、君はいつも通り不器用で、言葉は悪く不遜な態度ばかりで周りの人に誤解されがちになっている。でも、友人たちは君が悪い人ではなく、上手く優しく出来ない事を知っている。それを友人たちが理解してくれてるから君の周りには人が居て、君もいつも通りでいられる。
君はきっとわかっている。だから君はいつも周りを気に掛けて些細な事でもすぐ気づく。その行動に救われた人は少なくない。
僕ももちろんその一人で何度も何度も僕は手を引かれた。道に迷った時、君は必ず僕を見つけ出してくれる。僕の誰かの居場所をわかるのは君だけが出来る事だ。
そんな不器用でかっこいい君は誰もが憧れる人だけど、周りの人の事を思うとたまには笑顔で話してもいいんじゃないかな?とは思ってしまう。
大好きな君に
幼い頃は大嫌いだったけど、憧れだった。
僕には出来ない事をやってのける君に劣等感を抱いてたけど、僕の気持ちと君がすごいのは君には関係のない事で、すごい事はすごい!と幼い頃口にしていたしそう思った。
君とたくさん会話をして、君も僕も結局は変わらないのだと気付いた。目指すべき目標が一緒で君がすごくて、僕はまだまだ。それでも君は僕に何度もはっぱをかけて、落ちそうな僕を何度も救いあげた。僕は君の隣に立ちたかったけど、君は僕の前が良かったみたいで隣に居ると嫌そうな顔をしていた。
そして、僕が君の隣を超えた時、君は少し表情を崩しながらも、汚い言葉を投げながらも喜んでくれた。
そんな表情に嫌いだった気持ちがいつの間にか完全に憧れに変わって、そこからさらに好きに変わっていた事に気付いた。
きっと君は僕の事なんて好きじゃないだろう。でも僕は君のおかげでここまでこれた。君と歩めたからこそ得られた事がたくさんある。僕の人生を振り返ると君ばかりで笑ってしまった。
大嫌いから大好きになった君へ、いつかこの気持ちを届ける日がくるのかわからないけど、ありがとう。君がそばに居てくれたから今ここに僕が居る。
たった一つの希望
幼い頃からずっと憧れてるヒーローがいる。何度も何度も動画を見て胸を踊らせて、いつか僕もヒーローになりたい!なんて思いながら生きてきた。
少し成長したある日、ヒーローが終わりを告げた。膝から崩れ落ちて心が壊れそうだった。でもヒーローは最後までヒーローだった。彼じゃなくても僕らを守ってくれる人たちはたくさんいる。そんな彼らだって誰かのヒーローなんだ。
僕はどうなんだろう。幼い頃に憧れたあの気持ち、ずっとずっと僕の中でくすぶったままだ。みんなの希望は一つじゃない。でも、みんなが安心出来るヒーローは彼だった。僕も、そんなヒーローになりたい…!
終わりを告げたヒーローは僕の中でまだまだ輝いてる。辛い事も悲しい事も乗り越えなきゃいけない困難も、僕の中のたった一つの希望の光が僕を照らしてくれるから、僕は負けない。そしていつか彼のように誰もが安心して笑顔になれるヒーローになりたい…いや、なるんだ!
現実逃避
火曜日の朝は目玉焼きとウィンナーで決まっている。
曜日感覚のためや、決まったご飯にすることで節約になったりならなかったり。
いつもどおり目玉焼きを焼いてウィンナーを焼いて皿に盛る。フライパンはいつも通りシンクに、お湯を浸しておく。
上手く焼けた今日は、仕事が忙しくなるとわかっていても、ちょっと気分が上がる。るんるんにお弁当のおかずを詰めて蓋をして終わり♪なんて思いながら手を伸ばしたその先の蓋が滑り落ちた。お湯を浸したフライパンの中に…。
上がった気分が一気にズーンと落ちていく。見たくない…認めたくない…さっきまでのるんるんを返せ!!!心の中で悪態を着くも現実に起こった事に現実逃避なんて叶うはずもなくはぁ〜と大きいため息だけを口から零してスポンジを持った。