ずっと、ずっと、満たせないものがあるんだ。
不快で、目障りで、耳障りで仕方ないのに、どれだけ吐いても、閉ざしても、塞いでも満たされないこのナニカを満たしたくて。
だからひたすら繰り返したんだ。
吐いた分だけ喰らって、閉ざした分だけ光を集めて、塞いだ分だけ音を求めて。
それなのに、満たされるのは一瞬で枯渇して、すぐに飢えと渇きがやってくる。
本当は、解ってるんだ。この”欲望”が満たされることは絶対にないって。
それでも屠ることを止められないオレは、いずれ”欲望”に屠られるんだろう。
欲望
一体どれだけ歩いたのか、それはもう解らない。
ただぼんやりと、気の向くまま、足が向いた先を目指していたのかさえ曖昧で。
ーーーそうしてたどり着いた街は、あり得ないくらい懐かしい姿をしていた。
「……何で」
その問いに答える声はない。
ーーーない、はずだった。
「ーー!! 何ぼんやりしてんだよ!」
不意に聞こえた声に、思わず目を見張る。
嘘だ、と声にならない声が喉から滑り落ちた。
「ーー? どうした? 何かあったか?」
じっと見つめてくる目に、何も返せない。
嘘だ、そんなはずは……。
「本当にどうしたんだ、ーー? お前がボンヤリするなんて珍しいな」
ぽん、と肩に置かれた手は、確かにそこにあって。
嘘だ、嘘だ! だって、こんなことって……。
「ーー」
一番聞き慣れていた声に振り返るとーーー。
「ーーさん……?」
「お帰り、ーー」
ーーさんはそう言って俺を抱き締めた。
「帰れたんだよ、ーー。ずっとずっと帰りたかった”場所”に、やっと帰ってこれたんだ」
その言葉に、ようやく理解が追い付いた。
ーーーあぁ、そうか。 ……そうだったんだ。
ストンと腑に落ちた途端に、様々な感情があふれて止まらなくなった。
それはーーさんも同じだった様で、今にも泣き出しそうに笑っていた。
「おーい! 2人ともマジで置いてくぞ!」
「むしろ置いてくか? 案外、面白くなりそーだしな?」
「その後が面倒だって、解ってて言ってるよね?」
少し離れたところで、3人が俺達を呼ぶ。
それが泣きたくなるほど嬉しくて、帰ってこれたことをさらに実感して、感情に縛られた体はやっぱり動かなくて。
ーーーでも、置いて行かれるのはもう嫌だったから。
「ちょっと! 置いていかないでくださいよ!」
「置いてくなんて3人ともズルいよぉ~!」
慌てて駆け出した俺達を、3人は笑って待っていた。
遠くの街へ
静かな部屋。本が積まれた片隅。
気紛れに見る動画。乱雑に物が散った机。
差し込んだままの携帯と、置きっぱなしの携帯ゲーム機。
立ち上げたパソコンに向かって、何をするでもなく書き込んでいくこの現実が、一番の逃避なのかもしれない。
ーーー明日なんて、来なければいいのに。
現実逃避
ふわふわとした浮遊感。
地面に足が着いていない感じって、きっとこんなのかもね?
でも、ボクにとっては普通かな。
いつだって生きる行為は曖昧で、夢も現実も狭間では無意味で、終われない事実だけが希望で絶望だったから。
だからね、こんなのはボクにとっては”日常”でしかないんだよ。
それでいいんだって、そうしていかなきゃいけないんだって、思ってたのにねぇ。
それなのに君は今、こうして知りたいと思ってくれてる事実が、哀しくて仕方ないんだ。
君は今
伝えたいことはいつも伝わらないまま終わってた。
言葉も、気持ちも、願いも、祈りも、何でか最後の最後で伝わらなくて。
だから、止めた。伝えたいことを伝えることを止めればいいんだって思ったから。
それなのに、どうしてこんなにも苦しいんだろう?
見上げた空は、何も言わないまま見下ろしている。
違うのに、あまりにもそっくりな色をしていたから。
そんな空に、”落ちてみたい”と思った。
物憂げな空