【遠くの街へ】
置き去りにされた2月のように
打ち明けられた進路のように
陽射しが緩やかに人波をわけて
坂の上から何も見えない
足元から立ち昇るごめんねを
自転車の前カゴに入れたまま
行けるとこまで行きたい欲求
家とビルと色々な建物で歪む
地平線に良く似ている
握っていたシャツから少しだけ手を離す
慣れていた曲がり角を舌が忘れていく
振り返りそうになる、
目眩
【物憂げな空】
まだ若い
あめにちかい
息
成層圏までの 瘧(おこり)
ふる
ふってくる
それでいて柔い
かわいいな
と思う
間に
キョリ
【同情】
貧相な経歴です、
書くこともないです、
真っ白で潔癖です、
品行方正なら売るほどあります、
爪に滲んだ血の痕を隠すのは得意だから
そんな眼をしないで
見ないでって、
言えるはずもないのに
作り笑いの練習を
やすやすと超えてくる、君が
そんな眼をしていて
それでいて、
忘れたくないなんて
生まれて初めての我侭を
優しく打ち砕いていく、哀れみ
【今日にさよなら】
ダイレクトメールが寄越すのは色褪せた特売の情報
湿っぽいコンクリートの階段を登りながらチラシを丸める
行き止まりの部屋に行き止まりの回覧板
ざっと目を通して日付を書き加える
中途半端な言葉を飲み下してきたツケを支払う
救急車の音にかき消されたままの今日が終わる
発泡酒の泡がはじけてドップラー効果みたいに
迫ってくるいつまで経ってもずっとそこにいる
沈澱している
ふわふわの酩酊に満たないニュースキャスター
顔色の悪い他人が作り上げるささやかな今日
チラシを捲るようにはいかないから指を切る
せめて騒々しい傷が少しでも残せますように。
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個人的に好きなった。まんぞく。
スマートフォンの灯りは蛍のように
雑踏へ散らばっていく
魂に色があるならあんな感じ
口ずさむ 日暮れはいつも痛い
分かち合えないから独り善がり
分かち合うから迷う
見慣れた窓枠 夜空 がらんどう
肉薄した言葉もニュースになれば
初めましての初々しさが棘みたい
付け足して 差し引いて
出来上がったはずの孤独に驚く
この場所で
数える覚悟も無いまま魂を見送った
部屋に吹き込む風が
何かを捲りあげ 止んだ
この場所で
顕になった人型の白線
一切合切後はもう 目蓋次第