気がつけば、きみのことを目で追うようになっていた。
他の女の子にとられたくない。
そう思ってしまう。私のものでもないのに。
顔なんて、全然タイプじゃないのに
一緒に居たい、触れたい。なんて欲望が
湧いて出てくる。
どうやらこれは
流されて付き合うような、嘘気な恋ではなく、
本気の恋なのかもしれない。
カレンダーに書き込んだ、きみとの予定。
カレンダーを見るだけで、がんばれる。
嫌な仕事も、嫌いな人も、眼中に無い。
あと3日、あと2日、あと1日と、カウントダウン。
今か今かと、昂ぶる心をおさえつつ。
精一杯のおしゃれをして、髪も、お肌もスペシャルケア。
きみには、1番輝くわたしを見て欲しい。
そして、君が1番だって、言わせたい。
「だいすきです」この言葉が言えたなら
この曖昧な関係から抜け出して、
2人の予定をカレンダーに
書き込めたらいいな。
勉強しか取り柄のないわたし。
授業に興味がなさそうなきみ。
正反対のわたしたち。
何の因果か、共に学校から抜け出した、とある夏
きみがわたしの手を引き、走り出す。
手を引くきみの制汗剤の残り香が
わたしを掠めていく。
ああ、この慌ただしい胸の鼓動は、何によるものか?
こんなもの、習った覚えは無い。
うだるような暑さの中走ったから?
先生や親に怒られることへの恐怖?
唯一の自分の取り柄を捨てたことへの焦り?
否、これはきっと―――
昼、鍵盤の上で踊るように音を奏でる君の滑らかな指。
夜、君の滑らかな指は僕の頬をそっと撫でる。
ほんの僅かな理性を、本能がかき消す。
朝、となりで眠る君の薬指の影には
気付かないふりをしてキスをした。
ああ、僕の痕を沢山残しているのに、
気付かず出ていった君の顔がいつ歪むのかが楽しみだ。
君が僕の理性を飛ばしてくれたんだ。ありがとう。
でもまだ、君が僕の手のひらの上で踊るようになるまで
この気持ちは隠しておかないとね。
待ち合わせ場所にある、時を告げる大きな時計。
どれほどの出会いを見守っているのだろう。
と、見知らぬ人々の恋の始まりに思いを馳せる。