涙の理由
先輩が部署異動することになったので、私は仕事を引き継ぐために毎日沢山の事を教えられた。
ルーティンワークに飽き飽きしていたけれど、新しい事を覚えるのは、それはそれでストレスだ。
仕事を覚えるのは勿論嫌だし、先輩が居なくなるのはもっと嫌だ。
せっかく隣の席同士で仲良くなれたのに、唯一の先輩だったのに。
私はいつもなぜか仲良く出来そうな人とは離れる運命にある。自分だけ別のクラスになったり、仲良くなれそうだった同僚だって退職してしまった。
1人になるのは慣れてるからまだ我慢出来ると思っていたのに…なんで涙が止まらないんだろう。
花畑
実家の庭はごく普通の庭で、色々な木々が不揃いに生えている。それに加え木の形がヘンテコなのだ。
木の腕がバツっと根本から切られてわざと(?)生えてこないようにしてあるし、細い木は紐で縛られて広がらないようにしてある。
まばらに植えた花畑になるはずの種も、葉が生えてきたと思ったら雑草と間違えられ抜かれてしまったことも何度もあった。
これらは全て祖父の仕業で、幼いながら私は植物が拷問を受けているようで可哀想だと思っていた。
でもそれは思い違いだったのだ。
祖父が他界してから雑草は生え放題、木はアホ毛のように伸び放題…無法地帯の一歩手前になっていた。
人の物も勝手に断捨離してしまう祖父を憎たらしく思った事もあったけれど、失ってから祖父のやってきた事がいい事でもあった事に気づいた。
生きているうちに感謝の気持ちに気づけなかった分、たまには実家に顔を出して、庭のお手入れをしてみようと思った今日でした。
君からのLINE
とくに予定がなくやる事のない休日。
ゴロゴロダラダラ過ごしていると、友人からLINEがきた。
内容は、彼氏と待ち合わせしてご飯に行こうとしていたら、自分が待ち合わせに遅刻してしまったというものだ。
ふーん。と思いながら読んでいると、今度はその友人から電話が鳴った。
どうしたの?と聞くと、友人は、2分遅刻したんだけど彼氏が待ち合わせに居なくて、美容室に髪切りに行ってくる。と彼からLINEがあった。と言った。
思わず笑ってしまったが、私自身がそういう目にあったら実際は怒っていたと思う。しかし、友人は全く怒っておらず、私も遅刻が多いからお互い様だから。と言うのだ。
相変わらずネタの尽きない不思議なカップルだ…。
きらめき
土曜日。
さぁ、今日はこの散らかった部屋を綺麗にするぞ。
一人暮らしで誰にも迷惑をかけていないとはいえ、さすがに目に余るこの汚部屋。とりあえず足元の物から拾い上げていく事にした。
何かに没頭すると日頃の鬱憤が忘れられるし、片付ける動作で運動になるから一石二鳥〜♪なんて思っているとなにやら懐かしい物が。
アルバムだ。
そういえば一人暮らしをすると家族に伝えた時に、寂しくならないようにと母が持たせてくれたんだっけ。
写真には小さい頃の自分や祖父や祖母、若い頃の親、昔飼っていた犬が写っている。
今となっては色褪せた写真なのに、あの頃は世界が光って見えたんだよな。
明日は久しぶりに実家に帰ろう。片付ける手を少し早めながら呟いた。
だから、一人でいたい。
気配り、思いやり、上下関係…。
凝り固まったルールに縛られる毎日から解放を許されるのは、決められたわずかな休日だけ。
日々日本は、その場で不満を言えず、様々なストレスを抱えている人間で溢れているだろう。
勿論、私もその1人だ。
私も日本人ゆえに奥ゆかしく、悪しき感情を表に出さずに心に留める事にしている。見た目は能面、素顔は般若、その名は…といったところだ。
私は自称脳ある鷹だ。社内で愚痴を吐こうものなら、たちまち噂が広まる事を知っているので絶対に言わない。所詮他人に仏のような人は居ない。全員能面の皮を被った般若なのだ。
だから休日は思う存分1人カラオケをする事に決めている。サンボマスターを思いっきり叫んで歌ってやるんだ。