サンザカ カイリ

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3/11/2026, 6:31:17 AM

伸ばした手を包んでくれた貴方の掌が、ここにある何よりも暖かい。こんな不快な季節に、火に油を注ぐはずの体温がとても心地よくて、早くこのまま眠らせてほしかった。

怒鳴るような蝉の聲と、陰湿な湿気を含んだ森、叩き起こすように震えるスマートフォンが、私に早く戻って来いと引き戻そうとしている。
でももう振り返りたくない。できない。させて欲しくない。頭の中を掻き乱す事実と正論を焼き払う為に、只管に指先に纏う熱だけを考えた。

貴方は前だけを見ている。背を向けている。震える手を確かに掴みながら、絶対に離れぬよう力を込めながら、私を逃すまいとしているはずだった。貴方は今何を考えている?どこを見て、何を思っている?蝉の怒鳴り声も、森の陰口も、暴力的な通知も、貴方の耳にはどう届いているんだろうか?

紅くて、眩しくて、横暴な太陽から身を隠すように扉の奥へ潜り込んだ。ここには貴方と私しか存在を許されない、小さな破綻した生態系を孕んだ世界。
ここには怒鳴る声も陰口も暴力も何もない。貴方が与えてくれる愛情と静寂だけの世界。

日差しに焼かれるよりも早く身を焦がそうとした。
身体から霧散していく赤く光る灰が、蛍のように空を漂った。そんな気がした。

私を叩き起こそうと必死でいた着信音も諦めたようだった。いや、何処かに逃げたか、置いてきたのかもしれない。
しかし今となってはもうそれも大した話では無い。

お題:愛と平和

2/21/2026, 12:29:09 PM

もう少し進んでみようと思えた。だから僕はカーテンを引っ張った。時刻は10:30を過ぎた頃だった。
湿ったようにぬるい服を引き剥がして、タンスの奥底のTシャツを着込んだ。
ほのかに漂う防虫剤の匂いが過ぎた時間の長さを思い出させる。こんなにも長い間、お前はここに留まっていたんだと教えられた気がした。

何もかも嫌になる。何もかも否定したくなる。そうすれば何も抱えなくてもよくなる。失う以前に与えられることが無くなる。だから僕は全部を捨てて殻にこもった。

でももう一度、これが最後でいいから許してほしかった。許されたかった。他でもない自分に生きてて良いと許してあげたかった。だから僕は扉を力強く押してみた。

薄暗い部屋の中とは正反対の明るくて彩度の高い世界。外の世界。東から差し込むサーチライトが身体の中に蓄積した罪を照らし出したようだった。過ぎた時間とともに積み上がった余罪が1つずつ数えられていく。光を向けて影を見るのも、その影を数えるのも全部僕の仕業だった。
目の前を見るのが嫌になって天を仰いだ。
雲一つない青空がやけに深く見えて怖かった。

こんなに深くて広い世界の中の小さな存在に過ぎないことが救いなのか失望なのか、今の僕には判断できそうもない。

お題:0からの

2/21/2026, 6:34:54 AM

「その気持ちわかるよ。辛いよね。よく頑張ってる。本当によく頑張ってるよ。」
あなたはそう言ってくれた。でも私は貴方の事は分からない。本心も思惑もその言葉を選んだ意味さえも。

こわばった肉を貴方の手が包んでくれた。凍ったものを水で解凍するみたいに、冷え切った身体を湯船に沈めるように温かさが私を包み込んでいる。
重なり合う皮膚の凹凸と摩擦さえも優しさを含んでいる気がした。

だから今は、その言葉を向けてくれたこの瞬間を大切にさせてください。貴方の皮膚の匂いを私の脳に焼き付かせてください。

お題:同情

2/20/2026, 12:10:23 AM

くしゃり、とつま先が音を鳴らした。
枯れ葉が受け止めきれない重さに押し潰されて粉々に割れていた。今の僕とよく似ていた。
「もうこれでおしまいにしましょう」鉛をぶつけられたような言葉が扁桃体を潰した。
一定のリズムを刻みながら遠のいていくヒールのメトロノームが僕に催眠術をかけた。
これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない

背中から刺さるように響く楽しげな子供の声が、不愉快な痛みとして鼓膜の奥を突き刺した。


お題:枯葉

1/21/2026, 3:48:08 PM

浮き上がる体が地面から離れぬようコンクリートを踏みしめる。地を這いつくばり色を失った人々がいつもより低く見えた。
濡れたセメントの匂いも見知らぬ人間の揺れる傘も足をつかむように染みる雨水もなにもかも、今日だけは僕自身の幸せを引き立てるための舞台だった。

お題:特別な夜

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