『ページをめくる』
瓶の蓋を回すように
固結びをほどくように
生き辛くて俯いては
人はやっと寝るのでしょう
箪笥の裏を掃除したり
野良を見つけエサをあげて
意味も無いのに微笑みながら
人はやっと泣くのでしょう
季節を感じる余裕は無くても
大型犬ほどぺろぺろ舐める
鬱陶しいけど季節と戯れ
人はやっとページをめくる
あなたを失いガラクタが残り
生きてく方法も忘れたけれど
スーパーに並ぶ見切り品みたいに
私はやっと時間を買った
『夏の忘れ物を探しに』
早朝の涼しさに 移りゆく時を知る
また1つ歳を取る 寂しさに似た…痛み
楽しんだ人もいる 何も無い僕もいる
でも夏は此処に居た その価値は同じ…重さ
まだ暑い残暑のなか しなかったことを思う
まだやれるだろうかと 悪戯に火をつける
恋という花火がある 愛という盆もある
夏らしい食べ物で 今夜は騒ぎたい
告白のようなもの それも君に届けたい
感謝だとかありがとう それだけでも伝えたい
忘れ物…探してる 夏が去るその前に
何かしたことだけが 生きていた跡になる
『心の中の景色は』
枯れている 井戸の水
壊れそうな 古い家
割れた窓 ぬけた床
こちら見る ネズミたち
照りつける 秋の陽に
寒々と 冬の河
こわごわと 春の花
殺すほど 強い夏
どこまでも 砂の粒
遠くには 北の海
舞い上がる 砂あらし
ヘビのごとく ぬらぬらと
心には 景色がある
日によって 様変わり
息苦しい 寂しさと
ぶんなぐる この…弱さ
心の中 しがみつく
手が延びる つかもうと
この景色 血みどろに
塗り変える 君宛に
『ここにある』
百科事典はホコリをかぶり
児童文学は開かずの扉
暗闇にパソコンの光だけが生きて
私は珈琲を淹れている
強い孤独は飼いならされて
寂しいって感情は顔色をうかがう
家出をしたようにとっくに愛はいない
悲しいって涙は勝手に落ちる
生きてどうする?…… 同居の絶望
手応えが無くて壊したい衝動
愛されたかったゴミで埋まる台所
甘めのお菓子の無礼が好き
夜明けが近づき二杯目の珈琲
葬式みたいな静寂の湖
本当の自由はこの世には無くて
独房の理性が結局、強い
死んでどうする?…… 希望の先生
信じられぬ自分を好きにもなれなくて
語り合う相手がただ欲しいだけなのか?
ここにあるのか、私って存在は
『遠雷』
閉じこもる部屋を 一瞬…光らせ
遅れて轟音 カミナリが鳴る
気づかない愛も 衝撃のあとに
真実に触れ 心に鳴り響く
雨脚も強まり 世界は号泣
ガラスを叩いて 「たすけて」と言う
泣きわめく遠雷 時間差が…痛い
寄り添いたいのに あなたはとおい
窓を開け濡れる びゅって風も吹く
立ち昇る匂い 今日という場所
終わらない遠雷 わたしは見ていた
そして、駆け出した
無茶したい、愛がある