「名前、どうしよっか?」
「そうだねぇ……。」
自分のつけられた名前は
親にこう決められたのかも知れないし。
「○○にしなさいよ、どう?」
「良いじゃないか!
君たちの名前の漢字ひとつずつだろう?」
両親に提案されたのかもしれない。
はたまた、
「ねぇ!○○は?」
「可愛い~!」
と先に生まれた兄弟の意見かもしれない。
どんな決め方であれ
生まれ持った名前は
人生で一番書くことになるであろう。
初めて書けたクレヨンの文字
テストの始めに手をつけるあの空欄
ドキドキしながら筆を持つ婚姻届
どれも自分の持つ名前が入るのです。
貴方は生まれてから
最初に貰ったそのプレゼント、
大切にしていますか?
やぁ、僕はドール屋さんにいるテディベア。
ショーウィンドウにいれるのは嬉しいけど
少し日焼けしちゃったんだ。
そんな僕の代わりに
ショーウィンドウにいるのは紫色の目の女の子。大きなリボンがよく似合っているんだ。
店主がどうしても
店内側に置くから目が合うんだ。
君は何時生まれたの?とか
いつか優しい人が買ってくれると良いねとか
たくさん話すけど女の子は返してくれないんだ。
でも、ある日。くるくる髪の女の子がやって来て紫色の目の女の子を買っていったんだ。
僕は嬉しかったけど、ちょっと寂しかった。
君の目が薄い膜を張っていたこと、
僕は知っているよ。
君の視線の先には僕が映っていたのかな?
私だけの本棚、
私だけのティーカップ、
私だけの洋室。
子供の頃、
そう言って憧れたショーウィンドウの向こう側。
そんな憧れは等に忘れてしまった筈なのに、
私は真っ暗なオフィスの中、
光を放つパソコンの前で泣き出してしまった。
私だけという特別を忘れないように。
ずっと昔の記憶力。
忘れられないの、ずっと。
別に貴方を好いていた訳ではないのに、
困ったものね。
自分の気持ちを整理するためにも
したためることにするわ。
あの暑い夏の日。
私の被る麦わら帽子が風に拐われて
貴方の手の中に入ったのよ。
こう思うと、
本当に忘れられていないのね。私。
それから時々お話をするようになって、
友人になったのよね。少し懐かしく感じるわ。
ねぇ、何処に行ってしまったの?
貴方は優しいから私に嘘をついたのでしょう?
また、暑い夏の日に帽子を飛ばせば
貴方が拾ってくれるのかしら。
夏は少しノスタルジックに浸ってみても
良いのではないでしょうか。
ベランダから空を見上げる。
ふわふわとした雲が宙を漂っている。
子供の頃は食べたい、
なんて言っていた気がする。
本当は水蒸気と氷の粒だって
自由研究で知ったんだっけ。
あれから色々なことを知ったなぁ。
ふと、下を見ると誰かが此方を見上げている。
「ねぇ~、今日、遊ぶんじゃないの~?」
蝉の声を掻き分けて私の耳へと届いた。
あぁ、そうか。
そんな約束もしていた気がする。
「まあ、もう少し先で良いか。」
私はその場でそう呟くと冷たい部屋に戻った。
空を見ることは素敵なことです。
空を飛ぶのは
魔法使い以外、難しいことですよ。