子供の頃は
全て、自分が描いた理想的な人生だった。
幼い頃から、自分は周りと少し違かった。
歯車が合わなかった。
白くて、真っ白で、静かなキャンバスに描いた理想的な僕の人生図は、黒かった。
よく、夢がないと両親には言われていた。
子供の頃は理想的な人生を描いていただけだった。
でも、今は違う。
理想的な人生は叶うわけがない。
そう分かっていても、描いてしまう。
止められないんだ。
子供の頃と違って、結末が分かっていても、理想的な人生図をまだ求め続けてしまう。
子供の頃から変わらないな。僕は。
#11
落下
ああ、どこまでも落ちていく。
このまま落ちて終わってしまうのだろうか。
それとも、ずっと永遠に落ち続けるのだろうか。
空はずっと続いて、私からまとわりつくのをやめてくれないのだろうか。
手で触れようとしても、落ちてるので掴めない。
そもそも物なんてない。
ああ、まだ落ち続ける。
私が落ち終われば白い花が赤く彩やかに光るだろう。
ああ、先が見えない。
まだ落ち続ける。
いつ落ち終わるのだろうか。
一瞬で終わってしまいたい。
#10
好きな本
古びたページの匂い。
黄ばんだ小口。
折れ曲がった帯。
少しふにゃついている角。
大好きな本。
僕の部屋の床には本が積み重なっているタワーがいくつもある。
その積み重なっている本はどれも大切な本で僕の宝物。
でも、本は僕一人に愛して欲しいから、早くまた開いて。とお願いをしてくる。
僕は本が好きなんだ。
どれも好きなんだ。
本は本だから、どれか1冊を決めろなんてできない。
全ての本を抱いて寝たい。
#09
あいまいな空
雲がかる空は、僕の気持ちみたい。
僕の気持ちを表現する。
白いキャンバスに白い絵の具を垂らす。
筆で軽快なリズムで跡をつける。
白に白でも色がそれぞれ違う、あいまいな色だ。
それは僕に似すぎている。
この雲は僕であり、雲は僕である。
雲の形は様々なんだ。
あいまいな空はない。
あいまいさは雲なんだ。
#08
あじさい
今年の紫陽花は、一つ一つの花が美しい、てまり咲き。
凛とし、縹色が疎らに弱かったり、強かったり。
その姿に魅入られた。
貴方にそっくりで。
紫光りする黒髪、涙で潤い曇りがない瞳、透き通る肌。
その全てに私は魅入られ、鼓動が高まった。
そんな、貴方が私の傍にいる。
美しすぎる貴方に触れられるだけで幸せだった。
人間は情が移るもの。
貴方は、私に振り向き続けなかった。
私だけの美しい貴方なんだ。
私だけの紫陽花になってはくれないだろうか。
手をひき、貴方に口付けをする。
息がすぅと抜け、てまり咲き。
雨の水滴が花弁につく。
ゆっくりと指先ですくい口にすると、しょっぱかった。
私は感動した。他にも、涙せず笑って欲しい。
もっと、それを見たいんだ。もっと。
今年の紫陽花は、貴方に似すぎている。
あじさいはこれからも美しく雨に濡れ、咲き誇る。
#07