【星空の下で】
暗い空の下、僕は平気だと笑いながら風が吹くたびに少しだけ震えた。
夜は冷える。春物の上着を持ってはきたものの、桜が揺れるたびに足の温度が奪われる。
うう。
それでも痩せ我慢をしたのは、君にカッコ悪いところを見せたくないからだ。
大人だから寒くないさ。と見栄を切った十分前の自分を叱りたい。
「ね、流星群、見れるかな」
弟は寒さを感じないのか、夜空を見上げながら白い息を吐いた。耳も鼻もすでに赤い。
だが、彼は目がキラキラと輝いている。
まるで夢を見る子供のように。
「もちろん見れるさ。兄ちゃんを信じろよ」
「うん。初めてみるから、見逃さないようにしないと。流れ星に願いたい事があるんだ」
夜空に飛び立つかの勢いで、気合を入れる弟。
まるで遠足前日の子供みたいだ。
絶対早起きしよう、と意気込んで布団に入ってそのまま眠れなくなるやつ。
そんな弟の願い事には心当たりがある。
きっと来週行う予定の手術に成功しますように、だ。弟は持病を治す為に腹を切ることになっている。
放置すると悪いものが体内で大きくなり、治せなくなるからだ。
つまり腫瘍切除、と言うやつ。
「じゃ、俺も一緒に願ってやるよ」
「え、いいよ」
「そう言うな。ほら、星が流れ出したぞ」
入院前のマンションの屋上で、流れ星の雨が降る。
チラ、キラッと瞬いて消える一瞬の輝き。
いくつも流れてくる様は、地上を生きる人々の営みに似てる。
輝けるのに、とても短い。
「俺の手術の時に、兄ちゃんが泣きませんように!!」
「ぶっは!」
叫ぶような弟の願いに、思わず俺が吹き出した。
「だって兄ちゃん、弱虫のくせにすぐ強がるから。今日だってちょー寒いんだろ?」
弟の言い分に、僕の耳がさらに赤くなる。
うん、まぁ、ほら?
威厳って大事じゃん?
「兄ちゃんは何を願うの?」
「あーそうだな。僕は真っ当な願いにするよ」
弟の手術が成功して、生意気なところも治ってくれますよーに!
2人の願いは、静かに流星の輝きの中へと溶けていった。
【ふたりぼっち】
暖かな 手を繋ぎ歩む 花見坂
【絆】
リリとララ、二人は仲良し女の子……ーーンな訳があるかボケェ!
「もーお姉ちゃん! また私のノート取ったでしょ?!」
「あら、ララ。ピンクのノートのことかしら? そこに気付けるなんて凄いわね。でも私がお姉ちゃんだから、あなたの物がなくなるのは仕方ないわ」
「仕方ないってどーゆー事よ! お気に入りだったのに!」
妹のララが顔を真っ赤にして怒鳴る。メルヘンな小学生の子供部屋には不釣愛な、鬼の形相で、だ。
このままでは怒りで暴れ出しそうだと言うのに、姉のリリは涼しげな顔で手を振った。
しっしっ、と小動物を遇らうかのようにだ。
「あのノートは気に入ったから私のものよ。ララはまた買って貰えば良いじゃない」
「何もよくなーい!!」
怒りん坊のララはそう言って、双子の姉を怒鳴るとプンプンしながら部屋を出ていった。きっと親に言いつけに行ったのだろう。
リリは、そのうち妹の頭上でホットケーキが焼けるようになるのでは、と内心思う。
ニコニコ笑いながらララを見送ると、机の引き出しに手をかけた。小さな鍵付きの引き戸の中には、妹から奪ったいくつかのノートが収まっている。
そのノートのどれも可愛くて、素敵な物のはずなのだーークラスメイトからの歪な落書きさえなければ。
気づかれてはいけない。
妹が、クラスメイトからどんな気持ちを向けられているかを。
可愛い姿のリリとララ。
特別可愛いリリとララ。
きっと男子は放っとかない。
周りの女子など霞んじゃう。
加えてララは、生まれた時から怒りん坊。
自分の意見もはっきり言える。
そこが素敵じゃあるけれど。
生まれ持った才能で、妬まれ役の私達。
「絶対に、私があなたを守るわ」
だって私は姉だもの。誰よりあなたを愛してる。
リリはそう呟いてから、引き出しに鍵をかけると再び笑顔を貼り付けるのだった。
【LOVE you】
心置き無く胸いっぱいに、私は愛を吸い込んだ。
ふー、と一息つくと、今度は愛する相手を角度を変えて抱きしめる。ふわっとする柔らかさの先にある温もりに、いつも私は絆されるのを感じていた。
お腹の触り心地がたまらない。
本当に大好きだ。
彼の手も好きで思わずモミモミしていると、少し怒ったのか彼は不機嫌な視線を投げてきた。
「にゃーーっ」
「あはは、ごめんごめん」
けどそんな顔も好き。
猫バカでごめんね。
君の喜ぶ顔を見たくて、猫用お菓子でご機嫌取り。私の指まで一緒に舐められたら、ざらつく感覚に思わずにやけちゃう。
今日も、明日も、君のために仕事を頑張れる。
そこに見返りはないけど。
君は行ってらっしゃいの一言も言ってくれないけど。
「にゃーん」
「うん、気遣ってはくれてるんだよね。ちゃんと休憩もしてるよ、ありがとう」
「にゃうん」
君のために成長したいと思える日々は、私にとっての愛なのだ。
愛する君へ。
「にゃおーん」
「うん! 私も大好き!」
今日もありがとう。
【伝えたい】
とくんとくん と 音がする。
生命の始まりの音。
そしてこれから消える音。
けど、できれば。消えずにこのまま一緒にいてほしい。
とくん とくん。
貴方の優しい心音と、共に歩んでいたいから。