右を見ても左を見ても
見慣れたシャッターには
臨時休業の文字はなく
すれ違う白髪まじりの母たちに
あの頃の面影を見つけたくて
立ち寄るのはあの洋菓子屋
煤けた看板を掲げながら
並ぶ数多の宝石たちに
過ぎ行く制服たちも足を止め
懐かしさを背中に残して
夕暮れが暖簾を出す頃
増えるのは履き古した革靴
ぽつりぽつりと彩って
零れる灯りへ耳を向ければ
集う仲間の笑う声と
響く演歌の声高らかに
この町の朝は遅い
この町の夜は早い
この町は生きている
人知れず、時に働き時に休み
日常はみんな町と共にある
さあ行こう私の町へ
―――街へ―――
脆くて弱い飴細工のように
丁寧に包んであげること
柔らかくて愛おしい赤子のように
甘やかしてあげること
大きくて届かない月のように
離れて見守ってあげること
冷たくて痛い氷のように
時に突き放してあげること
煩くて苦手な鬼のように
本気で叱ってあげること
暗くて怖い雷雨の夜を
共に乗り越えてあげること
暖かくて優しい朝日を
共に迎えてあげること
―――優しさ―――
片翼の悪魔が呼んでいるの
私の後ろ、ずーっと向こう
怒っているようで
とても悲しそうで
吸い込まれそうなほど深い
美しい黒に包まれて。
視界いっぱいに
白が舞い上がった
それはふわりふわりと
一本道を作るように
ゆっくり、ゆっくり、
小さな背中
その真ん中辺りに
紅色に染まる1片
透明に笑う弱さを
消さないように
離さないように
無垢なる者
死がふたりを分けようとも
何度でも来世を誓おう。
―――こんな夢を見た―――
見てない。
進みたい未来も
戻りたい過去も
望む道は特にない。
それでも望めというのなら
行くも帰るも思うままに
風の通りに水の流れに
気の向く方へ私を乗せて。
雨に降られたら綺麗にしよう
雪が降ったら道を作ろう
蝉の鳴き声で光が差したら
桜の香りに星を探そう
同じことをして1つ歳をとり
同じ話をして2つ歳をとり
足を揃えて瓦落多になったら
今際の国へ向かいましょう。
―――タイムマシーン―――
乱雑に重なった少女時代の思い出
忘れないくらい繰り返した
大好きな始まりと悲しい終わり
何回泣いてもまた泣きたくて
色褪せない幼き恋に胸を弾ませて
平行線上の全てに一喜一憂し
交わることの無い行く先に
神様さえも叶えられない
幸せな未来を願って。
長い長い闇の始まりは
お気に入りのマグカップと
ちょっぴり悪い甘い星屑で
丁寧に積み上げた今日の思い出に
終わりを知らない最愛の時間に
乾杯をしようと思うのです。
―――特別な夜―――