『渡り鳥』
私が生まれた町の川辺には毎年、白鳥が来る。白鳥たちは冬を越すために遠い国から渡って来ると聞いて、幼い私は不思議に思っていた。冬を越すのに、なぜわざわざ寒い時期のこの地に来るのだろうと。
私は、この国の冬よりももっと寒い冬があり、もっと厳しい環境があるという事を知らなかった。せっかく来るのなら、暖かくて綺麗な花が見られる春や、プールや水遊びが楽しい夏や、美味しいものがたくさんある秋に来ればいいのに、と思っていた。
なんて事はない、無知な幼子の可愛い記憶の話。
『酸素』
たまたまそこにあっただけの
たまたま8番目の小さな粒たち
仲良く手を繋げるあの子はいい子
ひとりぼっちのあの子は悪い子
そう決めたのは世界だとしても
仲間外れにしたのは誰なのか
教えてくれよエラトステネス
篩から落ちた数字たちにも
割り切れない思いがあるように
肋骨を分け合った誰かにも
譲れない言い分があるはずで
とかなんとか言い訳しても結局は
もう全てが面倒臭くなってきて
さっきの酸素で燃やすため
部屋の隅で忘れ去られた
君の煙草に火をつける
『ただ君だけ』
君にあげられるものは何も無いけど
君にあげられないものも何も無いんだよ
このおかしな矛盾は
何も持っていない私が
君にあげられる言葉
ただ君がそこにいるだけで
全ての意味が満たされる
「風と」
どこかの木の枝から
私の家の玄関まで
風に吹かれてはるばる
花びらがやって来た
いらっしゃい
小さなお客さま
少し休みますか?
それともまた旅に出る?
スカートの揺れに合わせ
君は踊るように答える
ふぅぁ…
ひらっ…
はらっ…
貴方が私にくれたのは
絵に描いたような白い花
喜んで受け取るのは癪だから
花に罪は無いなんて言い訳をして
嬉しさを隠して受け取った
花弁を一枚千切って、好き
もう一枚千切って、嫌い
好き、嫌い、好き、嫌い、好き…
終わりの来ない花占いの
答えなんて本当は知っている
きっと花言葉まで調べて
この花を選んだ事も知っている
欲しいのは花束なんかじゃない事も
きっと貴方は知っている
だから貴方のことが好きで、嫌い
『好きになれない、嫌いになれない』