『エイプリルフール』
誰も傷つかないような
私の想像の中だけの
でも実現不可能でもないような
「そうだったらいいな」を
真面目な顔で言ってみたら
「それほんと?」って
真面目な顔で信じてくれた
私と君の間にずっと
春の風のように柔らかな
嘘みたいな幸せが吹きますように
『バカみたい』
バカみたいだと言って
バカだとは言わない
そんな人ばかりだから
バカだなって言って笑って
優しく頭を撫でてくれる
私を小さな子に変える
そんな貴方のことが
私はバカみたいに好き
『二人ぼっち』
君はコーヒー
私は紅茶
好きな飲み物を
それぞれ淹れたら
君は読書
私は編み物
それぞれが違う事を
だけど同じ部屋で
それぞれが好きな事を
だけど同じ気持ちで
小さな独り言を
受け取り合いながら
心のすみっこで
呼吸を感じ合いながら
君と私で過ごす
二人ぼっちの時間
『夢が醒める前に』
眠り足りた朝の光は
夢の残り香がして
方々を探してみると
重ねた枕の下から
小さな欠片が見つかる
大事に拾い上げると
呼吸するように輝いて
両手で包み込めば
まだほんのりと温かい
続きはあったかい?
そこはあったかい?
小さな言葉の遊びに
満たされたその欠片は
サラサラ溶けて流れ
記憶の中から消えていく
もう覚えているのは
覚えていてと言う
誰かの小さな声だけ
『胸が高鳴る』
今日も朝から忙しく動き回り、少し無理をして笑顔を作り、ぐったりと疲れながらもなんとか1日の仕事を終えた。
帰り道に寄ったドラッグストアで、日用品を補充して、明日の朝食のためにいつものパンを買う。
会計を終え、袋詰めのためにビニール袋を開こうとするが、なかなか開かない。手入れを疎かにしてカサついた自分の指先に、少しだけがっかりした。ふと見上げた先の新作コスメのポスターの中では、可愛らしいアイドルがキラキラと笑っている。
私は手早く袋詰めを済ませると、売り場に戻りハンドクリームのコーナーを探す。何十種類も並んだクリームを眺めていると、桜の香りの物が目に留まる。そういえばもう、3月も半ばを過ぎている。もうすぐ桜が咲く頃だ。
テスターを手に取り、ささくれた指先に塗る。ふわりと淡い香りが静かに立ち昇り、春の温度と空気が私を包んだ。
新しい季節の予感と、潤った指先の感触に、久し振りに胸が高鳴る。
ハンドクリームは、少し高価な気がした。だけど、どうしても欲しいと思い、私はそれを買って帰った。
今夜はゆっくりお風呂に浸かり、眠る前にこのハンドクリームを塗ろうと決めた。春に包まれて眠りたかったからだ。
忙しい日々の中で、その小さな胸の高鳴りは、忘れかけていた何かを取り戻させ、もう少しだけ自分に優しくしようと思わせてくれた。桜の香りは私の指先で、私の日々を小さく守ってくれる。